りんどう庵

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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


43.約束だよ

2010.03.24  *Edit 

じゅわっと、油の中でエビが食欲を誘う音をさせる。
ちらりと桃佳は時計を気にしだした。
さっき多希と電話で話してから、もう一時間以上がたっている。
そろそろ帰ってくるかな、と揚げ物を始めたものの、二人が帰ってくる気配は未だにない。
このままではせっかくの揚げ物が冷たくなってしまう。
久しぶりに、楓の好きなものをご馳走してあげようと張り切っていただけに、温かいものを食べさせたかった。

「遅いなあ」
そう口にしたとき、玄関の外から明るい声が聞こえてきた。
それは徐々に近くなり、桃佳の部屋の玄関を開ける。
「姉ちゃん!!ただいま!」
元気いっぱいに楓が笑顔で居間のドアを開ける。後ろから、同じように微笑んだ多希も入ってきた。
用意された食事を見て、楓が目を輝かせる。「うわあー!!俺の好きなものばっかり!!」
つまみ食いをする楓を苦笑いで見つめ、桃佳は多希にぺこりと頭を下げた。
「多希さん。今日は本当にすいませんでした。せっかくのお休みを、楓のせいで潰してしまって・・・」
「いや、別に。俺も楓と一緒に楽しんできたし」
な、楓。と、多希はつまみ食いのレベルを超えて、次々にお皿の上のものを口に放り込む楓に声をかける。
「うん!おじさん、ゲーム、とか、下手なんだ、よ。ごほっ」
口いっぱいに放り込んだ食べ物のせいで、最後の方はむせこんでいる。
そんな楓の様子を見て、桃佳と多希は顔を見合わせて笑った。
「・・・じゃあ、モモ。俺は無事に楓を送り届けたし、帰るよ」
さっさと向きを変えた多希を、桃佳が呼び止める。
「あ、あの、多希さん」
「ん?」
「よかったら、一緒に夕食食べませんか?今日はとってもお世話になっちゃたし」
桃佳の申し出に、多希は目を丸くする。
「でも、せっかくの家族水入らずだろ?」
「おじさん!!一緒に食べてきなよ。姉ちゃんの料理は、そこそこ美味しいんだから」
まさか二人がいつも一緒に食事をしているなど、露ほどにも思っていない楓の提案に、桃佳も多希も微妙な顔で微笑む。
「楓もああ言ってますから。それに・・・」桃佳は冷蔵庫を開けると、さっき冷やしたワインを取り出す。「これ、好きかどうかは分からなかったんですが、ワインも買ってきたんで」
「俺に?」
「はい」
多希は驚いたような顔で、綺麗なラベルの張られた、すっきりとした形のボトルを受け取る。そして、ワインのボトルと桃佳の顔を見比べると、ふわりと笑った。
その顔はあまりにも優しくてきれいで、思わず桃佳はどきりとする。最近になって、多希はそんな表情を時々見せるようになった。そしてその表情は、『見るものを魅了する表情』だと桃佳は密かに思っている。
「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて。ああ、そうだ」
多希はポケットの中に手を突っ込む。
無造作にポケットにつめられていたので、多少形の崩れてしまった桃人形の形を整えてから、少しだけ照れくさそうに桃佳に差し出す。
「これ・・・」
「へ?」
掌に乗せられた、小さな桃の天使の人形を桃佳はきょとんとして見つめた。
「姉ちゃん、それ、おじさんが頑張って取ったんだよ。姉ちゃんに似てるからって」
「私に?」
言われてもう一度しげしげと桃人形を見つめる。その顔は妙にぽやんとしたもので、桃佳は頬を膨らませた。
「似てますか?」
「似てるよ」
楓と多希の声が重なり、二人は顔を見合わせてぷっと吹き出した。
「もう!」桃佳は口を尖らせたものの、二人の笑い声につられて笑い出してしまう。
「多希さん」
「ん?」
「ありがとうございます」
桃佳は多希に花の咲いたような笑顔を向けた。その表情を見ると、自分の中にある何かが満たされるような気が多希はした。
さっきこの人形をとったときに感じたことなど、もうどうでもいいような気分にさえなる。
「さあ、ワインを開けましょうか。楓は勿論ジュースね!」
多希が慣れた手つきでワインのコルクを外す。桃佳の部屋には洒落たワイングラスなんかなくて、彼女は少しだけ残念に思いながら、多希にワインをついだ。
「モモも飲まない?せっかくだから」
グラスを差し出され、桃佳はほんの少し悩んでからうなづく。「そうですね、じゃあ、少しだけ」
それから楓のグラスにはジュースを注いで、三人で乾杯をする。
「かんぱーい」
何に乾杯かはよく分からなかったけれど、にこやかにグラスを合わせるのは楽しい。
「さあ、じゃ、夕食出しますね」
一口飲んだグラスをテーブルに置いて、桃佳は準備しておいた夕食を並べる。
エビフライに、から揚げに、ナポリタンに・・・出してから、彼女は苦笑する。
「なんだか、お子様ランチみたい」
「でも、俺の好きなものばっかだよ!!」
楓の好きなものばかり用意したから、お子様ランチのようになったんだと、その言葉を彼女は飲み込んだ。楓はお子様扱いされるのが大嫌いだから。
最後にテーブルの上に出した野菜サラダを見て、楓の表情が引きつる。
「姉ちゃん・・・。今日は俺の好きなものばっかりじゃあ・・・」
「まだ野菜が苦手なの?好き嫌いしてたら、ろくな大人になれないんだから」
楓の隣で、野菜サラダを見て表情をこわばらせていた多希が、微妙な顔をした。「それって、もしかして俺に対する嫌味かな?」
その言葉に、桃佳はしまったと言うように口元を押さえたものの、もう時既に遅しだ。
「おじさんも野菜嫌いなの?俺たちって、結構気が合うかもなぁ」
「もう!喜んでないの!いつものドレッシング作ってあげるから、野菜はちゃんと食べなさい」
そう言いながら、冷蔵庫を開けたものの、マヨネーズがもうほんの少ししか残っていない。
買わなければ、と思いつつ、すっかり忘れていたことを、桃佳はそのとき思い出した。
「あの、なんだか私、マヨネーズ買い忘れてたみたいで・・・ちょっとそこまで買いに行ってきますから」
「これから?車で送っていこうか?」
「ダメですよ!もう飲んじゃってるじゃないですか。それに、すぐそこのコンビにですから、すぐ帰ってきます。楓と二人で先に食べててくださいね」
エプロンを外し、財布を持つと、桃佳は居間のドアに手をかける。
「モモ」
「はい?」
「気をつけてね」
「はい」
「それから」
「はい?」
「ワイン、美味しかったよ」
グラス越しに極上の笑みを向けられ、桃佳は目のやり場に困ってしまう。
どうしようもなく居心地の悪いような気分になって、「行ってきます」と逃げるようにして部屋を後にした。

「おじさん、せっかくだから食べてようよ」
待ちきれないと言った様子で、楓が多希を急かす。
本当ならば待っていたい気持ちもあったものの、先に食べているほうが桃佳も喜ぶような気がして、「そうだね」と楓の提案に賛成する。
「いただきます」
その言葉の直後から、育ち盛りの楓は、多希には真似できなさそうなスピードで食べ始めた。
呆気にとられながら暫く楓を見つめていると、その箸が動きを止める。
「なあ、おじさん」
「ん?」
「姉ちゃんは、毎日楽しく過ごせているのかな?」
多希のほうは見ず、食べ物の上でうろうろ箸を漂わせた後、から揚げをひとつ口に放り込む。
どう答えていいものか・・・。
多希が答えられずにいると、楓がふっと笑う。
「なんて、こんなこと、ただのお隣さんに聞いたって分かるわけないか」
楓の質問には答えられそうもないので、多希は逆に楓に問いかける。
「そんなに、お姉ちゃんのことが心配なの?こっちに来たのだって、モモのことが心配だから、なんだろ?」
その質問に、楓は黙ってコクリと頷く。
「・・・だって、姉ちゃん、俺たちのために、こんなに遠くまで来て、それに俺、姉ちゃんが俺たちのせいでいじめられてたなんて、全然知らなくって・・・」
楓は俯いてぼそぼそそう言った。
その顔は真っ赤で、泣きそうなのを必死にこらえているようにも見えた。
「どういうこと?」
多希はできるだけ優しく声をかけた。
「姉ちゃん、俺たちの面倒を見なくちゃならなくって、それで、友達との付き合いが全然できなくなっちゃったんだ。多分そのせいで・・・それがきっかけでいじめられたみたいなんだ。でも、俺、そんなこと最近まで全然知らなくって、最近姉ちゃんと同じ年の兄弟がいる奴からそのこと聞いて、それで俺、いても立ってもいられなくって・・・」
そこまで一気に言って、俯いたままで楓は袖で目の辺りを擦る。
「それに姉ちゃん、新しい母さんと俺たちが早く仲良くなれるように、わざと家から遠い学校を受験して・・・。自分がいたら、きっと俺たちが姉ちゃん頼って、新しい母さんの居場所がなくなると思ったんだ」
もう一度、袖で目の辺りをぐいと拭いて、「いつだって俺たちのことばっかり思って、バカなんだ」と呟くように言った。


我慢するつもりだったし、楓にはそもそも泣くつもりなんてなかった。しかも、素性の知れない、大好きな姉を『好きだ』と言ったお隣さんの前でなど、恥ずかしくて泣けるはずもなかった。
それなのに、こらえていたものが溢れてくるように目の前が潤んで、楓は何度も何度も袖でごしごしと目を擦る。

ふわり。

急に頭上に感じた温もりに、楓は驚いて顔を上げた。
顔を上げると、大きな手を楓の頭に置き、気遣うような多希の表情に出会った。
泣いていることをバカにされると思っていたのに、予想に反した多希の表情に、楓の方が戸惑ってしまう。
「か、格好悪いとか思ってるんだろ!泣いたりしてさ・・・」
強がってぷいと顔を背けたものの、言葉の最後が弱々しくて、多希は頭に載せた手で桃佳に似た柔らかな髪の毛をぐしゃりと撫でた。
「思ってないよ」
「・・・嘘だぁ」
「嘘じゃないって。俺の知っている限り、モモはいつも元気で、時々むちゃくちゃだよ」
多希がそう言って微笑むと、楓も「むちゃくちゃか」と言って少し微笑んだ。
「なあ、おじさん」
楓は腕で残った涙を拭うと、正座をして多希に向き直る。
「こんなこと、ただのお隣さんのおじさんに頼むことじゃないのかもしれないんだけど、俺、他に頼める人いないし・・・」
「何?」
「姉ちゃんのこと、助けてやって欲しいんだ。悲しくないように」
真っ直ぐな、懇願するような瞳。
その瞳に、多希の心の中が一瞬ざわめく。

悲しまないように助ける。
桃佳の悲しみ。
もしかして、桃佳を一番悲しませているのは・・・?

プツリとそこで思考は停止する。
まるでその先を考えないようにするかのように。
そして、多希の心の中からは、その疑問自体が消えた。

「分かったよ」
にこやかに多希は答える。
「でも、ただのお隣さんだからね、どこまでできるかわからないけど」
彼の言葉に、楓の表情はぱっと明るくなった。その笑顔はさっき桃佳が見せた『花が咲くような笑顔』ととてもよく似ている。
「約束だよ」
「いいよ。約束」
二人で、小指と小指を絡める。
そのときガチャリと居間のドアが開く音がして、驚いた顔で桃佳が二人を見ている。
「何?どうしちゃったの?」
絡めた小指を振りながら、「秘密!!」楓がいたずらっぽい表情を作った。
「変なの。今、ドレッシング作るからね」
楓につられて笑いながら、桃佳は台所に立つ。


「男同士の約束だからね!」
楓はそっと多希に耳打ちした。




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