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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


5.別人でありますように

2010.03.23  *Edit 

結局、美佐子はそのまま20分ほど桃佳と話し込んで、「あら、ごめんね、お邪魔しちゃって」なんて言いながら部屋を出て行った。
桃佳としては、まだいてくれても一向に構わなかったけれど、引き留める理由もない。
美佐子が出て行ってしまうと、部屋の中は急にしんと静かになってしまたようだ。

「・・・ごめんね、母さん、俺が女の子を連れてくるなんてこと滅多にないから、面白がってるんだ」
駿が申し訳なさそうに笑う。
「全然。優しそうなお母さんだね」
「そうかな?」
「そうだよ」
色々と詮索好きではありそうだけれど、美佐子が『優しそうなお母さん』というのは、桃佳の本音だった。
「そうだ、この前、清水の好きだって言ってたCD買ったんだけど、聞く?」
「うん」
駿がそう言って音楽をかける。
この前、二人でCDショップに行ったときに桃佳が「いい曲だね」と言った女性ボーカルの綺麗な声が響く。
彼女が何気なく言った一言も、駿はこうして覚えていてくれている。
自分がどれだけ駿に大事に思われているか、そう思うと、桃佳の心は温かいものに満たされていく。
「やっぱり、いい曲」
桃佳はにっこりとほほ笑んだ。
さっきまでの緊張感も、つかえていた何かも、綺麗な曲に流されていくような気がした。
「帰り、このCD持っていくといいよ」
「本当?ありがとう」
二人の間に、この6か月間で出来上がった『二人の空気』のようなものが戻ってくるようだった。
駿が美佐子がやってくる前にそうしたように桃佳の隣に座ると、ゆっくりと顔を近づけてきた。
さっきは思わず下を見て避けてしまったが、桃佳は何も考えることなく、大きな瞳を閉じた。
軽く触れるだけのキスをする。

『やっぱりこれでよかったんだ』

と桃佳は思った。
優しい駿、その彼に嘘をつくことは後ろめたかったけれど、こうして変わらない二人の時間をなくしたくはない。
この心地いい、二人の空気をなくしたくはなかった。


『トントン』


再び部屋のドアがノックされる。
「また母さんかな?」
駿がちょっとだけ嫌そうな顔で、小声で桃佳に言った。
「はい?」
返事をすると、ガチャリとドアが開く。
「あれ?兄貴、どうしたの?」
駿のびっくりしたような声で、桃佳もドアの方を見た。
そこに立っていたのは、背の高い男の人で...その顔を見た途端、彼女は体中の細胞が一瞬にして凍りつくのを感じた。
「ごめん、駿。お客さん来るって言ってたっけ。ちょっと物を取りに来たんだけど、入っていいかな?」
「ああ、どうぞ」

桃佳は混乱していた。
仲良さげに会話をする、駿と彼が「兄貴」と呼ぶ人物。
でもその「兄貴」の顔は、その顔は...。


「ワタルさん!!」


その名を叫びそうになったけれど、幸か不幸か桃佳の喉はあまりの驚きに凍りついていたので、その名が桃花の口から叫ばれることはなかった。
心臓が今まで経験したことがないほど、ものすごい速さで脈を打っている。
そのせいか、めまいで床が揺れているような気がした。

「あ、清水。紹介するよ。兄貴」

桃佳は呆けたようにその人物を見た。
駿に紹介されたその人は、少しも驚いた様子もなく、穏やかに微笑んでいる。

「初めまして。駿の兄の多希(たき)です」

...多希?
ワタルじゃなくて…?
初めまして?
桃佳は混乱した頭で、多希の言葉の意味を必死に考えた。
名前が違う。
多希は全く、驚いた様子も動揺した様子もない。
昨日あんなことがあって、こんな態度をとることができるんだろうか?
もしかしたら別人...?

「あ、あの、清水桃佳です。...はじめ、まして」
やっと言葉を絞り出す。

「よろしくね」
多希が桃佳に笑いかける。

やっぱり、別人?
桃佳は多希に見入った。
確かに、昨日の夜会ったワタルとは雰囲気が違うようだった。
ワタルは洗練されたイメージがあったけれど、目の前にいる多希はメガネをかけて、服装もどちらかというと野暮ったい感じがする。
そう思った途端に、多希とワタルとが別人のように思えてくる。
それに別人でなければ、こんなに落ち着いていられるだろうか?

「兄貴、何探しに来たの?」
「うん、ちょっと学生の時に使ってた教科書を、ね。悪いけど、ちょっと探させてもらうよ」
「どうぞ」

さっき桃佳がこの部屋に入ってきて不自然に思った場所、無造作に荷物が置かれている場所で多希は探し物を始めた。
どうやら、この部屋はきっと駿と多希の二人の部屋だったのだろう。
話の流れから、多希は今は一緒に生活はしていないらしいと桃佳は思った。
教科書を探しているという多希は、一向に桃佳を気にする様子もない。
『本当に別人かもしれない』
そう思うと、桃佳の心臓もいくらか静かになってきた。
「兄貴、レントゲン技師なんだ。清水の家の近くに総合病院あるだろ?あそこで働いてる」
「そうなんだ」
正直、駿の言葉は桃佳の耳に入っていないも同然だ。
視線はどうしても、探し物をしている多希の背中へと向いてしまう。それでも駿の手前、あからさまに見ることもできないので、ちらちらとその姿を盗み見る。
キスマークだらけの胸や首筋がチクチクと痛むような気がした。
昨日の夜の出来事が、感触さえも伴って生々しく蘇ってくる。
けれど、そんな桃佳と対照的に、多希はただ黙々と探し物をしているようだった。

「兄貴、今日は仕事休みなんだ」
「うん。土曜日だからね。当番でもないから、病院から呼び出されることもないよ」
振り向いて苦笑する多希。
その顔は、やっぱり昨日のワタルとは違うような気がして、桃佳は「本当に別人かもしれない」と頭の片隅で考えていた。
そうであってほしいと、心から願いながら。
そう願っているうちに、だんだんと『別人に違いない』と思う気持ちが根拠のない確信へと変わっていって、桃佳の心は落ち着きを取り戻していった。

「おかしいな、ここにしまっておいたと思うんだけど・・・。駿、知らない?」
「ああ、もしかして」多希の言葉に、駿が思い出したように顔を上げる。
この間、置きっぱなしになっていた多希の荷物をまとめて、納戸にしまったことを思い出す。「ダンボールにしまったやつかも」
「どこにある?」
「あ、俺、持ってくるよ。勝手にしまってごめんね、兄貴」
「いいよ。それより悪いね」
「ちょっと待ってて」

そんなやり取りをして、駿は「ちょっとごめんね」と言って部屋を出て行った。
駿が出て行ってしまって、部屋には桃佳と多希の二人きり。
『本当に別人かもしれない』という、根拠のない確信で幾分落ち着きを取り戻していた桃佳だったけれど、さすがに二人きりになってしまうと、落ち着かない。
なるべく多希とは目が合わないように、顔を伏せてじっとしていた。
「清水さん・・・だっけ?」
不意に多希に声をかけられて、桃佳の体は緊張で硬くなる。
「はい」
恐る恐る視線を上げると、穏やかに笑う多希と目が合った。あわてて目を伏せる。
「駿、いい奴でしょ?」
「・・・はい、そうですね」
「本当にいい奴なんだ。友達も多いしね」
「はい。みんな、駿君のこと、信頼してます」
「だろうね、あいつは人を裏切らないから」

『裏切らないから』

その言葉に桃佳の胸はチクリと痛む。
でもそれは真実だから、小さくこくりと頷いた。



「そんな駿を裏切るって、どんな気持ち?」




無表情に桃佳を見つめる多希。
その言葉の意味は、異国の言葉のように、すぐに理解することはできなかった。



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