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ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


49.闇の中で迷う心

2010.03.25  *Edit 

はあ、と桃佳は何度目になるか分からないため息を漏らした。
濡れた服は体にまとわりつき気持ち悪かったし、冷えきった体の体温を尚も奪っていく。それでも動く気にもなれず、とりあえず乱れてしまった服を元に戻しただけで、ぼんやりと座り込んでいた。

「くしゅっ」
くしゃみと共に体が再び震え始める。
今回の震えの原因は間違いなく寒さで、それを止める方法は簡単そうだ。
それでもやはり何もしたくなくて、桃佳は体の震えを無視する。しかし、どんどんその震えは強くなっていき、彼女はまたも大きなため息をついて諦めたように立ち上がった。
その場で服を脱ぎ捨てる。
濡れた衣服は思っていた以上に脱ぎずらい。それでも無理やりに服を脱ぎ捨てた。
スカートのポケットの中から、ころりと何かが転がり落ち、彼女はそれを拾い上げる。
ちりん。
澄んだ鈴の音が桃佳の手の中で響く。駿に投げつけたものと、同じ鈴の音。無意識に眉をひそめた。
桃佳同様びしょ濡れになった携帯は、どうやらその役目を果たせなくなっているらしい。電源を落とした覚えもないのに、携帯はすっかり沈黙していた。
けれどそれもどうでもいいこと。
それよりも、彼女にとっては都合がいいことにさえ思えるのだった。沈黙した携帯が、誰からの声も誰からのメッセージも届けてくれないことが。
「くしゅっ」
もう一度くしゃみをして、桃佳は携帯をゴミ箱に捨てると浴室に向かった。

熱いシャワーを浴びるとほんの少しだけほっとして、ほっとした途端にまた涙が溢れてきた。
シャワーを頭から浴びると、頬を伝うのが涙なのか、シャワーのお湯なのか分からなくなってまたほっとする。

ああ、何だかひどい一日……。

そんなことをぼんやり思った。
まるで自分の身に降り掛かったことが、他人事のようにも思える。
他人事に思う一方で、どうにもならない胸の痛みが、逃げることのできない現実であることを桃佳に告げていた。
暫くそうやって頭からお湯をかぶってから、体も頭も必要以上に泡を立てて洗う。何度も何度もごしごしと。無意識のうちに、自分の秘所に指を入れて何かを取り出すように洗っていた。痛みで自分の行為に気がついて、泡だらけの体と頭を洗い流す。
浴室を出ると、髪の毛も乾かさずに部屋着に着替えてベットに転がって布団をかぶった。
喉が渇いていたような気がしていたものの、水を飲むという簡単な行動さえもする気にはならない。
桃佳はすぐに眠りが訪れてくれることを切に祈ったものの、なかなかそれは叶わなかった。それどころか、あんなに熱いシャワーで体を温めたはずなのに、背中がぞくぞくとして近寄ってくる眠気さえもどこかに吹き飛ばしてしまうようだ。
布団で体を包み込むようにして、眠れない桃佳はじっと闇を見つめる。
静かな闇の中でじっとしていると、混乱していた思考が少しずつほぐれていく。

「……本当は私が、駿ちゃんのこと攻められる立場じゃないのに……」

闇の中でポツリと呟いた。
本当は先に駿のことを裏切ってしまったのは自分。そのことは桃佳もよく分かっていた。
その上、いくら駿との関係を守るためといっても、多希との秘密の関係を続けていることは、ずっと彼女に後ろめたい思いを抱かせていた。
けれど、その思いも最近優しくなってきた多希の態度で忘れかけ、後ろめたい思いも以前ほど大きなものではなくなっていた。
それは新しい後ろめたさの種にもなっていたのだ。
「これは罰……なのかな?」
駿を裏切る続ける自分への、罰。
そう思ったものの、それでも今日の駿の行為は多希のこととは関係のないことのように思われた。
誰かのせいではなく、駿と自分との関係の中で生じてしまったこと。それが真実のように思われた。
けれど、桃佳にはどうしてこんなことになってしまったのか、その理由がどうしても分からない。
『駿の事を守る』
そう思っていた。駿にもそう告げた。心からの言葉で。
けれど、駿にはその言葉の決意は伝わるはずもなかったのだろうか?
自分を見ていないように空虚な瞳で、言葉も発せず、ただ獣のように自分を抱き、体の中に全てを放出した駿。
思い出して、桃佳は自分の体を抱いた。
あの時駿は何を思って自分のことを抱いていたのだろうか?
やはり考えても、桃佳には分からなかったし、分かりたくないとも思った。あの行為には愛情の欠片も感じることはできなかったのだから。

まだ、多希さんのほうがよかった……

そんなことを思ってしまい、桃佳ははっとしてその思いを追い出すように寝返りを打つ。
けれど、その思いは桃佳の頭から消えることはなく、彼女の中を満たしていく。
首筋の赤い花びらを見つけ、急に豹変してしてしまった多希。久しぶりに見せた、冷たい色のない瞳。
それでも最後には桃佳の言葉を聞き入れて何もせずに去っていった。
最後に見せた悲しそうな、悔しそうな、やりきれない顔を思い出す。

もしかして嫉妬したのだろうか?
けれど、本当にそんなここがあるのだろうか?
この関係をゲームだと言った彼が。

それよりも、多希からのキスを受け入れ、彼を抱きしめてしまった自分にどう説明をつけていいのだろうか。
そのことを思うと、桃佳の心臓は急激に心拍数を上げる。
それは考えてはいけないことのような気がした。
触れてはならない、開けてはならないパンドラの箱。
開けてしまえば、次々と悲しみと苦しみと災いが飛び出してくるという、パンドラの箱。
怖い。
桃佳の中で警告音が鳴り響く。危険を知らせる、けたたましい音。
「……どうかしていたのよ私、きっと……」
震える声で呟く。
「どうかしてたんだわ……」
指先が白くなるほど布団を強く握り締め、桃佳は闇の中できつくきつく目を閉じた。




『お掛けになった電話番号は、電源が入っていないか……』

さっきから何度もきいているその機械音に、駿はいらいらとして電話を切った。
あの後どうしても桃佳を見つけられず、かと言って彼女の部屋に行く勇気もなくて、いつものようにバイトに来てしまった。
バイト先で暇を見つけてはこうして何度も桃佳に電話しているものの、携帯は一向に繋がらない。
メールもしてみたものの、返信もない。
ちりん。
携帯で桃佳と同じストラップが、駿の気持ちとは逆に涼やかな音を立てる。
その音を聞くと、駿の中でどうしようもないくらいの焦燥感が膨らんでいく。
……このままでは、終わってしまう。
そう思うと、胃の中に鉛の塊でも入っているかのような苦しさがこみ上げてきた。
このままでは、きっと桃佳は駿からの連絡を拒否し続け、風化するように自分たちの関係は消えてしまう。
自分のしたことは最低の行為だ。
許してもらえないかもしれない。
けれど、このまま終わるのはどうしても受け入れたくない。
駿は携帯電話をぎゅっと握り締めた。
どうしていいのか、これからどうするべきなのか、駿にはその答えを見つけられないでいた。




最近の自分はどうかしていた。
もう5本目になるビールを開けながら、多希は思う。
ゲームの上に成り立っている関係を、まるで現実のように感じていた。
駿の存在も、最初の目的も忘れてしまうほどに……。
「これはゲーム」
自嘲的に笑いながら、呟く。
「ゲームなんだよ」
だから、目的はひとつ。
駿を苦しめるために、桃佳を利用する。
桃佳との関係も、『誰かを好きだと思う自分を演じてみるのも楽しそうだから』それだけに過ぎない。
そして、最後には捨てるだけの存在。
初めからそのつもりだったし、最後まで貫き通すはずの目的。
忘れかけていた、それがこのゲームの、桃佳との日々の真実。
「俺は、バカか?」
呟きながら、ビールをあおる。
「最初から最後まで、これはゲームなんだよ」
まるで自分に言い聞かせるように、念を押すように呟かれる言葉。
色を失った目は、闇だけを見つめていた。





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