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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


50.熱と現実逃避

2010.03.25  *Edit 

「章吾!!頼む!!」

急に駿にそう言われて、わけの分からない章吾は驚いたように頼み込む友人の顔を見た。
「えっと……何が?」
章吾が困ったように言うのは当たり前。
理由も告げられずに急に頭を下げられても、どうしていいのか分からないというものだ。
「みなみちゃんと連絡取りたいんだ。章吾、みなみちゃんの携帯番号知ってるだろ? だから、電話してもらえないかな?」
「みなみと? またなんで……」
突拍子もなくこんなことを頼んでおいて、理由を言わないわけにもいかない。駿は言いずらそうにかいつまんで桃佳とのことを話した。
「……実は、清水とちょっと喧嘩みたいなことになって、連絡が取れないんだ。それで、清水はみなみちゃんと仲がいいから、ちょっと彼女と話をしたいと思って……」
かなりかいつまんで、大事なところは全く口にすることができなかった。
「ふうん、清水さんと喧嘩ねえ。お前らにしては珍しいね。今まで一回も喧嘩なんかしたことなかったんじゃない?」
「うん……まあ、ね」
章吾は正直、二人の喧嘩の理由に興味津々だったものの、言いよどんでいる駿の様子と『みなみと連絡が取りたい』と言う駿の言葉から、彼が自分ではなくみなみに相談したいのだろうと思い、それ以上は追求しないことにした。
それに、喧嘩の理由ならみなみに後から探りを入れてみてもいい。
「とりあえず分かったよ。でもまあ、付き合ってたら喧嘩のひとつやふたつ当たり前だもんな。今まで喧嘩もしてなかった方がちょっと異常だって」
明るく、茶化すように言ったものの、駿がその言葉に険しい顔をしたので、章吾は笑いを引っ込めて代わりに携帯電話を取り出した。
「今かけてみる?」
「頼むよ」
章吾は携帯電話のボタンを操作した。




「桃佳、あんた、大丈夫?」
ひやりとしたみなみの手の平が額に乗せられ、桃佳はぼんやりと視線を上げる。
「やだ、桃佳熱あるんじゃないの?」
額に乗せた手の平に、それと分かる熱さが伝わってきて、みなみは顔をしかめる。
桃佳の前には、手付かずのお弁当箱が出しっぱなしになっている。
「大丈夫だよ……」
桃佳はみなみに笑って見せたものの、彼女は到底その言葉を信じることができそうもない。いつもまじめに講義を受けている桃佳が、何度か居眠りをしているのを見ていたから。
「昼からのノートは取っておいてあげるから、あんたもう帰った方がいいんじゃない?」
「うん……」
心配そうに顔を覗き込まれ、桃佳は肩をすくめる。
みなみの言うとおり、これ以上学校にいたとしてもとてもまともに講義なんて受けていられそうもなかった。
「帰ろうかな」
「そうしなさい。何だったら送っていこうか? それとも駿君呼ぶ?」
その言葉に桃佳の体がびくりと震える。
「それは、いい!! 大丈夫!! 私ひとりで帰れるから!!」
突然、火が付いたように声を荒げた桃佳を、みなみは驚いて見つめる。どちらかと言うといつもぽやんとしている桃佳に、その様子はあまりにも似合わない。
「あ、ごめん」
そんな自分の様子に気が付いて、桃佳は困ったような顔を俯かせた。
「どうしたの? もしかして、駿君と何かあった?」
『駿と何かあった』だろうことは、みなみにとって疑問ではなく確信だったものの、当の桃佳は俯いたままでぶんぶんと首を振っている。その様子が更にその確信を深めた。
「何があったの?」
さっきよりも突っ込んだ聞き方をしてみたものの、やはり桃佳は俯いたままで首を振るだけだ。
「桃佳?」
「……ないの」
「え?」
「何でもないの。こんなことで駿ちゃんには迷惑かけたくないから。駿ちゃんだって学校あるんだし」
俯いたままで、みなみの顔を見ずに答える桃佳。
何かあったのは間違いなさそうだけれど、今の桃佳はとてもその理由を話す気はないらしい。こうなってしまったら、何を聞いても話さないだろうことは、今までの付き合いの中でみなみもよく分かっている。
「そっか。じゃあ、一人で帰れるの?」
問われて桃佳はこくんと頷く。
「じゃあ、帰ったら電話してよね」
「あ、みなみちゃん。そのことなんだけど実は……携帯、壊れちゃって」
「壊れた?」
「うん。その、服と一緒に洗濯しちゃって……。親には一人暮らしさせてもらってるし、携帯も安くないじゃない? だから暫く携帯は買い換えないと思うんだ」
「はあ!?」
みなみは素っ頓狂な声をあげる。
大体、桃佳の部屋には固定電話もない。携帯は現代人の必須アイテムに等しい。それを洗濯して壊した上に、親に負担をかけないために買い換えないとまで言っている。みなみにとっては、携帯電話をなくすイコール世界から孤立する、くらいのイメージがあると言うのに。
けれどそこでみなみは、はっと気が付いた。
携帯電話をなくすイコール世界から孤立する、と言うのであれば、世界から……もしくは誰かから姿を隠したいのであれば、携帯がないというのはこれ以上好都合なことがないということを。
そして、桃佳は多分、駿から姿を隠したいのだ。
「はあ」
今度は素っ頓狂な声ではなく、大きなため息を漏らす。
「桃佳って、本当におっちょこちょいだね。携帯なしじゃ、生きてけないかもよ?」
何を聞いても答えないであろう桃佳に、みなみは明るく接することしか今はできそうもない。
「だね」
みなみの明るさに、桃佳もほっとしたように笑顔を見せた。
そのとき、みなみの携帯が流行のアーティストの楽曲を鳴らす。ポケットから携帯を取り出したみなみは、表示されている名前に眉をひそめた。
「章吾……?」
その名前に、桃佳は思わずみなみを凝視した。みなみもその視線を感じながら、通話ボタンを押した。
「もしもし?」
『あ~、みなみ。元気?』
「元気よ。何の用? 合コンの誘いなら、間に合ってるよ」
電話の向こうで章吾が笑っている声が聞こえる。それから、一瞬間をおいて聞こえてきたのは、珍しくまじめな声だった。
『あのさ、近くに清水さん、いる?』
みなみはちらりと桃佳を見る。桃佳はさっきと同じように、彼女のことを凝視していた。
「そうだね」
章吾のまじめな声、それに桃佳のことを聞いてくるということは、多分自分に用事があるのは章吾ではなく駿なのだろうという事が、勘のいいみなみにはすぐに分かった。
それに、それが桃佳に聞かれたくないのだろう事も。
『なんか話が早そうな返事だな。じゃあ、ちょっと駿がお前と話したいって言ってるから、電話代わるからな』
そして、章吾もみなみの返事の仕方で、彼女が何か勘付いている事を察する。彼も勘のいい男なのだ。
「分かったよ」
『もしもし、みなみちゃん?』
「うん。で、なに?」
まるで電話の相手が代わっていないかのように、みなみは振舞う。
『あのさ、今日の夕方ちょっと会えないかな?』
「そっか。いいけど、どうしたらいいの?」
桃佳はやはりみなみを凝視したまま。みなみとしては、精一杯の明るい声を出して誤魔化すしかない。
『あとでそっちの学校の近くに行くから、章吾からみなみちゃんの電話番号を聞いて、連絡するようにしてもいいかな?』
「うん」
『じゃあ、後でまた連絡するよ』
「うん」
『あ……』
「なに?」
『あの、清水にはこのこと、黙っておいて欲しいんだ』
「分かってるよ。じゃあね」

電話を切ったみなみを、桃佳はやはり凝視している。
視線をみなみに据えたままで、震えるような唇を開く。
「……もしかして、駿ちゃん?」
いつもはぼんやりしている桃佳は、時々急に鋭い。けれど、二人の間にもしも何かあったのだとしたら、駿の友達の章吾から連絡が来たということは、自分のことかもしれないと思うのは当たり前かもしれなかった。
それに、桃佳は携帯電話を壊してしまったと言うのだから、連絡の取れない駿が、みなみを頼ってきたと考えても不自然ではない。
「違うよ。章吾だってば。今週末また飲み会開こうぜ~!だってさ。本当にお気楽なんだから」
明るく言うみなみに、桃佳の険しくなっていた表情も緩む。
「そっか。章吾君、飲み会好きだもんね」
「そうそう! なんせ宴会部長だからね」
桃佳は安心したようにくすりと笑うと、お弁当箱を鞄の中にしまって鞄を抱える。
「じゃあ、私、帰ろうかな? 悪いけれど、後からノート見せてね」
「任せておいて!! なるべく寝ないように頑張るから!!」
「うん。よろしくね」

桃佳はみなみに笑顔で手を振ったものの、立ち上がると思った以上に足元が揺らいでいることに気が付く。
電車で帰れるだろうか。
と心配になったものの、この時間、そんなに混んでいるとも考えられないので、座ることはできるだろう。そう思って駅を目指すことにする。
体が重く、駅までの短い道のりもいつもの倍以上に感じた。
やっと来た電車に乗って、空いている席に座る。やはり昼間のこの時間は、電車は空いていて簡単に座れたのが何よりもありがたかった。
電車の揺れは一定のリズムを刻んでいるようで、桃佳は何度か眠り込みそうになってしまったが、何とか意識をつなぎとめる。眠ってしまっては、降りる駅についても起きる自信はとてもあるとは言い難い。

ああ、早く布団にくるまって眠ってしまいたい。
静かに、深く……。
そうしたら、楽になれるかも知れない。

そんなことは到底ないと分かっていながらも、桃佳はただ眠ることだけに心を奪われていた。
体のだるさと、どうしていいのか分からない所在の無い心が、彼女を現実から更に遠ざけているようだった。
現実から逃げられないということは、心の底で理解しているとしても。
駿のことも、そして多希のことも、今は、今日だけは忘れてしまいたかった。
考えるくらいなら、熱に浮かされるほうがまだましなように思われたのだった。

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