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ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


51.そっとしておいて

2010.03.25  *Edit 

みなみが指定されたコーヒーショップに着いたとき、駿はもう窓際の席に座って、アイスコーヒーを飲んでいた。みなみに気が付くと、軽く片手を挙げる。

「ごめんね、みなみちゃん。わざわざ来てもらって」
駿は申し訳なさそうに笑う。その後に、軽く咳き込んだ。
「駿君、風邪?」
「うん、ちょっと引いちゃったみたいなんだ」
「そう。桃佳も風邪引いてるみたいだったよ」
「清水が?」
駿が目を見開く。いかにも知らなかったというその表情で、桃佳と駿がどのような手段かは別としても、連絡を取り合っていなかったことがみなみにも伺えた。
「あんまり具合悪そうだったから、お昼過ぎに帰るように言ってやったの。もう帰ってるはずだけど」
「そうなんだ……」
駿は考え込むように呟いた。桃佳が風邪を引いた原因は、自分と同じで昨日雨に濡れたせいだろう。体の具合はどうなのだろうかと、急に桃佳のことが心配になってきた。けれど、携帯電話は昨日から何度かけても繋がらない。
考え込むように黙り込んだ駿を暫く見つめてから、みなみは本題を口にする。
「で、桃佳と何があったの?」
顔はニコニコと笑っていたものの、伺うような視線を駿に向けている。ちゃんと話してもらうわよ、とでも言うようなその視線に、駿は思わず肩をすくめた。
「その、清水からは何か聞いてる?」
そう問われて、肩をすくめるのは今度はみなみの番だった。「全然。何も聞いてないよ。でも、何かあったんだろうってことは、態度見てれば分かるから」
「そっか、清水、そういうの隠すの下手そうだもんな」
駿が苦笑すると、みなみはにっこりと微笑む。
「うん。駿君も下手だけどね。ちょっとした喧嘩じゃ、ないんでしょ?」
その確信の込められた口調に、駿はため息をつく。何も聞いてないとはいえ、見透かされているようだ。
「実は……」
駿は観念したように話し始めた。



「ふうん。そんなことがあったの」
章吾には全てを話さなかった駿も、誤魔化せないと思い、洗い浚い昨日の出来事をみなみに話した。
ストローをもてあそびながらも黙って聞いていたみなみだったが、話が終わるのと同時に、目を上げて駿を見た。
駿としてはこんな話をして、みなみには軽蔑される覚悟もできていたのだったが、目を上げて駿を見た彼女の瞳は、特に軽蔑の色を含んではいない。
そんな駿の心をまた見透かしたようにみなみが笑う。
「大丈夫だよ。別に駿君のこと軽蔑したりしないから。……だってさあ、色々あるじゃない」
「ありがとう。そう言ってもらえると助かる」
駿もみなみの笑顔につられて、ほっと息をつき微笑んだ。
「でも、どうしてそんなことになっちゃたの? 駿君と桃佳って喧嘩したこともなかったじゃない」
その質問に駿は顔を曇らせる。その理由をうまく説明できそうもなかった。きっかけは、自分が桃佳のことを何も知らないのだという事実に気が付いたこと。それからはもう、まるで階段を転がり落ちるかのように、暗闇の中に落ちていってしまった感じだ。
「……うまく説明できないけど」
「うん」
「俺、清水のこと、何も知らなくて。清水も自分のことも自分が何をしたいのか、何を思っているのかもいつも言ってくれなくて。それが急に不安、って言うか不満に思えてきた。言いたい事も言えないで、俺たちってなんなんだろう……って」
言ってしまってから駿は急に戸惑う。あれほどまでに自分の中で渦を巻いていた感情のはずなのに、言葉に出してしまった途端に、とんでもなく小さなことのように思われた。
「考えすぎなんだよね、多分。駿君は桃佳のこと。桃佳は駿君のこと」
そう言いながら、みなみは残りのアイスコーヒーをズズっとストローで吸い込んだ。
「考えすぎ?」
「そう。お互いにお互いのこと考えて、遠慮して言いたい事も相手のためだと思って我慢してる。特に桃佳は。私にもそうだもん。私のこと考えすぎて、遠慮して自分の思ってること言わないの」
みなみの言う桃佳の姿と、駿の中の桃佳の姿が重なる。
そう、出会った頃から桃佳はいつも周りにばかり気を遣っていた。いつも遠慮して、輪の外で静かに微笑んでいるようなタイプだったのだ。
駿もそんな桃佳の事を好きになったというのに、そのことをすっかり忘れてしまっていた。ただ、いつの間にか全てを欲しがるばかりで。
「それがじれったくもあり、羨ましくもあるのよねー」
「羨ましい?」
駿の疑問にみなみは大きく頷く。
「そうだよ。遠慮も気遣いもなくなったらおしまいじゃない。まあ、桃佳の場合はちょっと極端だけど」
「確かにね」
駿はみなみの言葉で心が軽くなるのを感じた。そう、桃佳は『そういう子』なのだ。
「それからこれ、駿君に話していいのか分からないけれど……」
みなみはそう言って口ごもる。駿としてはそこまで聞かされて、教えてもらえないのだとしたら、それこそ気持ちが悪い。
「何? そこまで言っておいて言わないのはどうかと思うよ?」
駿はやんわりと、けれど確実にみなみを促す。
「うん。まあ、そうだよね。実はね、友達の連れの子が桃佳と同じ高校だったらしくて、それで聞いちゃったんだけど、桃佳、高校の頃にいじめにあっていたらしいの」
「……いじめ?」
驚いたような駿に、みなみは頷いて見せる。
「どうやらね、最初のきっかけは学校が終わったらすぐに帰っちゃって、付き合いが悪いってことだったらしいんだけど、そのうちに自分が可愛いと思ってお高くとまっているとか、ブスがいきがるなとか、ひどいことを言われていたみたい。かなり辛そうだったって……そう聞いた。あの子が自分に自信がなくて、いつも人のことばかり気にしているのはきっとそのせい」
「俺、そんなこと、全然知らなかった。やっぱり俺は清水のこと、何も分かってなかったんだな」
駿は悔しげにテーブルの上で拳を握る。
「違うよ、駿君。自分の彼氏に、『昔自分はいじめにあってた』なんてこと、知られたいと思う? あの桃佳がそんなこと、駿君に知られたいはずないじゃない」
みなみの声は、どこか咎めているようでもある。みなみ自身、この期に及んで、まだ自分が何も知らなかったことにこだわっている駿には、正直苛立ちを覚えていた。
咎めるような声色に気が付き、駿は黙り込む。確かにみなみの言うとおりで、桃佳ならばそんな自分の過去を知られたくないと思っても当然のことだろう。それを、自分はいつまでもただ『知らなかった』ということだけに拘ってしまう。
自分はもしかしたら自分が思っているよりもずっと、自分勝手なのかもしれない。
「確かに桃佳も昔のことがあったとはいえ、ちょっと極端だけどね」
みなみはほんの少しだけ笑顔を見せた後、強い視線を駿に向けた。
「でもね、駿君。確かに桃佳は極端に自分を見せなかったかもしれないけど、駿君は桃佳を知ろうとしてくれた? ……って、私もいつか話してくれるだろうとかって思って、何も聞かないでいたんだから責められないんだけれど。でも、もっと桃佳のこと知ろうとしてあげてたら、桃佳だって今よりもっと自分らしくいられたんじゃないかって、私、そう思うの。そう、桃佳らしくいさせてあげることができたら」
「知ろうと……?」
駿は自分自身に問いかける。
自分は果たして、彼女を知ろうとしていただろうかと。
一緒いれば、いつか分かり合えるだろう。時間がたてば、いつか気持ちも通じ合うだろう。
いつもそう思って、物足りなさを感じていても、そのままにしてきた。
それが思いやりだと思って、自分の気持ちさえも押さえつけ、言いたいことも我慢してきた。
そして多分、それは桃佳も同じこと。
同じように、お互いに、言いたいことがあっても胸の中に仕舞いこんできたのだ。……この7ヶ月もの間。
そして、多分桃佳は桃佳らしく過ごせていなかったに違いない。駿自身も、駿らしく過ごせていたのだろうか?

「俺……、どうしたらいいかな?」
ポツリと呟く。それは自分自身に呟いた言葉で、決してみなみに向けた言葉ではない。
みなみもそれを分かった上で、少しお節介かなと思いながらも口を開く。
「……今は、そっとしておいてくれないかな? 確かに男女の仲だから、色々あっても仕方ないとは思うの。でも駿君の話してくれたことを考えると、桃佳はきっとかなり参ってる。私は桃佳の友達だからはっきり言わせてもらうけど、桃佳が落ちつくまで少しの間そっとしておいてくれないかな?」
少しでも駿を傷つけないようにとの考えか、みなみの顔は穏やかさを保っていたものの、真剣な眼差しとその言葉は、彼の心に確実に突き刺さった。
伝えたいことは伝え終わり、多分、駿からももう話がないだろうと悟ったみなみは、ゆっくりと席を立つ。
「まあ、二人のことだから、私の言葉はあんまり気にしないで、どうするべきかは駿君が考えて。あ…それと、桃佳、携帯壊れたって言ってたから、桃佳と連絡が取れないのは、駿君のこと避けてるわけじゃないから」
そう言って、にこりと笑って手を振る。

駿は店を出て行くみなみの背中を見送り、ほうっと大きなため息をつく。
『どうするべきかは駿君が考えて』
みなみの言葉が耳の奥で響く。
考えなければならないことは、たくさんあるようだ。

……ただ、駿には答えを見つけ出す自信はあまりなかった。




自分の熱い呼吸を感じながら、意識が浮上するのを感じて目を開ける。
荒い呼吸音が聞こえ、それが自分のものだということをすぐには理解できなかった。

熱、上がってるのかも……。

熱い呼吸を繰り返しながら、桃佳はそう思う。
夕食の準備。
その言葉と共に、一瞬多希の顔が過(よぎ)ったものの、それ以上意識が続かない。
もう何もかもがどうでもよくて、全てを放棄するように桃佳はまた沈み込もうとする意識に素直に従った。

きっと多希は来ない。
意識が沈み込む一瞬前に、確信にも似た気持ちが桃佳の中を過って消えた。

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