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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


55.年上の女性(ひと)

2010.03.25  *Edit 

「ああ~、またため息ついてんの?」

返却されたDVDを棚に戻しながらため息をついた途端、後ろからそう声をかけられ、駿はあわてて振り返った。
「美鳥(みどり)さん」
言った瞬間、後頭部をたたかれる。
「美鳥でいいってば! さんはいらないの! はい、言ってみて」
「……美鳥」
目の前の女性の勢いにおされ、駿は照れながらも彼女の名前を呼び捨てにした。
大体自分の彼女でさえ、未だに名字で呼んでいる駿が照れないはずがない。
彼女、冴島(さえじま)美鳥は満足気に頷きながら微笑む。
「そうそう、それでいいのよ」
身体のラインが分かる、ぴたっとした水色のTシャツに、デニムのミニスカート。そこからすらりとした足が伸びている。
テニスのサークルに所属しているという彼女は、健康的で、森を駆け回る小動物を彷彿とさせた。
最近バイトのシフトが一緒になることが多く、話す機会が増えたのだった。
しかもよく聞くと、三歳年上で、駿と同じ大学の先輩ということが分かり、それがきっかけで余計に美鳥は駿にちょっかいをかけるようになったのだ。

「ねえ駿、なんかあったの?」
抱え込んだDVDを持ちなおそうと俯いた時、鼻先が触れそうなくらいギリギリに顔を覗き込まれ、駿は赤くなって飛び退いた。
「おっ、赤くなってるー」
くすくす笑う美鳥を、少しだけ怒ったような瞳で見る。まだ顔は赤いままだ。
「……からかってるでしょ?」
「うん。だって駿、からかうと面白いんだもん」
事もなげに言い捨てられ、駿はまたしてもため息をついた。
「あ、またため息ついた! ため息つくと幸せ逃げちゃうよ?」
今度は少し離れて、駿の浮かない顔を覗き込む美鳥。
「別に……」
美鳥が小さくぽってりとした唇を尖らせ、りすのようにくりくりした瞳で駿をじぃっと見ている。
「そぉう?」
「そうだよ。ほら、それよりお客さんじゃないの?」
「えっ? やばっ」
レジに並んでいる人影を認めて、美鳥はあわてて小走りで駆けていく。
その背中を見つめて、またしても彼はため息をついた。
いつも自分をからかっては楽しんでいる美鳥。駿はそんな彼女が少しだけ苦手だ。
女友達の少ない駿は、馴れ馴れしい美鳥にどう接していいかよく分からなかったし、何よりも、桃佳と正反対とも言えるその性格は、余計に桃佳のことを思い出させるのだった。
「清水……大丈夫かな」
小さく呟いて、中途半端になっていた作業を再開した。

バイトを終えた駿は、ロッカールームで壁に貼られたカレンダーを見た。
今日は水曜日。これで二日桃佳と会っていない。いつも会えないときには電話をしたりメールをしたりしていただけに、何の連絡も取れない二日間は今までの二日間とは明らかに違っていた。
自分の風邪はひどくならずにすんだものの、桃佳の体調はどうなのだろうか?
そればかり気になったものの、携帯が壊れている桃佳とは連絡の取りようもない。いっそ彼女の部屋まで行ってみようかと思うものの、『そっとしておいてあげて』というみなみの言葉が引っかかってそれもできない。
うだうだと悩むしかできない自分がもどかしく、腹立たしい。
それでもどうしていいか分からなくて、身動きが取れないのだ。
従業員専用の裏口から外に出ようとしたとき、言い争うような声が聞こえ、駿は思わず立ち止まった。
「……どういうことよ、それ!!」
怒鳴り声の主はどうやら冴島美鳥のようだ。
隠れる必要もないのだろうけれど、駿は裏口のドアを閉めて外に出ると、壁際に体を隠して好奇心から耳を澄ました。
ちらりと声のしたほうを見ると、通りで美鳥が携帯で誰かと話しているのが見えた。
「もういいってこと……? そう……」
ちらりと覗き見た美鳥は、今にも泣き出しそうな顔をしている。けれど、その表情は次の瞬間に豹変した。
「もういいわよ!! ふざけんな!! 死んじまえ!! この馬鹿野郎!!」
大声で暴言を吐き、興奮して肩で息をしている。人通りの少ない道だったものの、歩いている人たちは皆、びっくりしたように美鳥のことを一瞬見て、関わり合いたくないというように足早に通り過ぎてゆく。
駿としても同じだ。
今この瞬間、興奮しきった美鳥に見つかりでもしたら、どんな風に絡まれるか分かったものではない。
見つからないように、美鳥が去ってしまうのをまさに『嵐が通り過ぎるのを待つ』気持ちで待っているつもりだった……。そう、そのつもりだったのに、その『台風』の方から駿のところに飛び込んできたのだ。
そのまま帰ってしまうのだと思っていた美鳥は、駿のいるバイト先の裏口の方に走ってきた。しかも、その顔はさっきの暴言とは裏腹に、くしゃくしゃに歪めたひどい泣き顔で……。

「美鳥……さん?」
思わず『さん』付けで呼んでしまったのに、美鳥はいつものようにそれに突っ込みを入れることもなく、その代わりに駿の胸の中に飛び込んでくると、わあわあと声をあげて泣き出したのだった。
駿は驚いたものの、ここで美鳥を引き剥がすのはとても残酷なことのような気がして、戸惑いながらもゆっくりと美鳥の背中に手を回して、泣きじゃくるその背中を優しく撫でる。

どれくらいそうしていただろうか。
ほんの数分だったかもしれないし、もっと長い時間かもしれない。けれど駿にとっては桃佳以外の女の人を腕の中に包み込むなんて初めてのことで、時間の感覚などなくなってしまっていた。ただ、バイトの交代の時間ではないので、他の従業員に見つからなかったのはありがたかった。
激しく泣きじゃくっていた美鳥の背中は、次第に落ち着きを取り戻し、泣き声も小さくなってやがて静かになる。駿の腕の中で、美鳥が大きなため息をついたのが彼にも伝わる。それを合図にしたかのように、美鳥が顔を上げた。
彼女は、腫れぼったい瞼に充血した瞳、涙の乾ききらない頬で、それでもはにかんだように微笑んだ。
「ごめん。駿。びっくりさせたね」
顔を上げたものの、美鳥は駿の腕の中から離れる気配がなく、それどころか彼の背中に腕を回してさっきよりもぴったりと体をくっつける。
桃佳とは違った、女らしいメリハリのある身体。その身体は桃佳よりも柔らかく、大きな胸は駿の胃の辺りになんともいえない感触を与えている。駿は思わず自分の身体の中心に血液が集まってくるような、『やばい』衝動を感じて美鳥の両肩を掴んでその魅力的な身体を引き剥がした。
月曜日のことを除けば、もう十日近く桃佳と身体を合わせていない。そんな欲求不満の状態で、美鳥の魅惑的な身体は正直体に毒でしかなく、反応してしまいそうな自分を押さえるのは相当な苦労だ。
「……あれ? もしかして駿、どきどきしちゃったりしてる……?」
さっきまで声を上げて泣いていたくせに、美鳥は真っ赤になっている駿をからかうような目で覗き込む。
「どきどき、しちゃった?」
面白そうに笑いながら、再び駿に抱きつき、その柔らかな体を嫌と言うほど押し付ける。
「!! やめ……!! 美鳥さん!」
「みどりー、でしょう?」
涙も乾ききっていないくせに、その口調は完全に面白がっている。
「分かった!! 分かったから、離れて、美鳥!!」
「うん。それでいいんだってば」
そう言うと、彼女は駿の身体に回していた手をやっと離してくれた。
駿は真っ赤な顔を見られたくなくて、そっぽを向いて異変が起こりそうになってしまった身体と心を落ち着けるように深呼吸をする。何度か深呼吸をしたところで、やっと身体も心も落ち着きを取り戻してきた。
「……ごめんね、駿」
ぽつりと呟く美鳥を振り返ると、もうそこにはさっきまでのからかうような表情は微塵もない。寂しげな表情だけがそこにはあった。
「聞いてたんでしょ? 私の暴言」
美鳥の苦笑いにつられ、駿も苦笑いを浮かべる。
「うん。聞いちゃった。ごめん」
人事でも度肝を抜かれた美鳥の罵詈雑言。言われた本人はきっと自分よりも驚いたに違いない……そう思うと、駿は少しだけ電話の相手に同情した。
「もっと言ってやりたかったなあ」
眉毛を八の字に曲げ、何とか笑顔を作ろうとするものの、美鳥の表情は笑顔から泣き顔に変わる。細めた目から、再び涙が一筋流れ出した。
「美鳥……」
駿は困ったように彼女を見つめ、立ち尽くすことしかできない。
「ホント、らしくないよね……。後悔なんて」
そう言いながらクシャリと前髪をかきあげる美鳥。ぽたりぽたりと次々に涙が床に落ちる。
「はあ……。こんなことなら待ったりするんじゃなかった。何もしないで後悔だけ残るなんて、こんなに馬鹿らしいことないわ……。馬鹿野郎は私だ……」
呟くように言葉を搾り出し、唇を噛み締めて震えている。
何とかして美鳥を慰めたくて、伸ばした駿の手を彼女はするりとすり抜ける。
「ねえ、駿。今度一緒に飲もうよ。バイト終わった後にさ。で、今日のことも聞いて?」
にこりと笑うその笑顔が痛々しいものの、必死に笑う彼女に駿も笑顔を返した。
「そうだね、いいよ。でも俺、あんまり酒強くないよ」
「私もそんなに強くないって。じゃあ、約束ね!!」
「うん」


その後、美鳥は瞼の腫れが引くまでここにいるとロッカールームに戻り、駿はその場を後にした。
駅までの道を一人歩きながら、駿はほっと息をつく。
やはり、美鳥のことは苦手だ。
喜怒哀楽をはっきり示したり、約束をねだるその姿を見ていると、桃佳もこんなふうだったらよかったのにだなんて、ついそんなことを考えてしまうから。

空を見上げる。
曇り空で星どころか、月さえも出ていない。

「清水、どうしているかな」

呟く声は、ただ曇り空に向かって流れていく。
明日にでも桃佳の学校に行ってみよう……。
駅に向かいながら駿はそう思った。

『何もしないで後悔だけ残るなんて、こんなに馬鹿らしいことないわ……』
耳の奥に美鳥の言葉が蘇る。
確かにその通りだと、駿もそう思った。
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