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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


59.正しいカタチ

2010.03.25  *Edit 

「あ、桃佳! もう体は大丈夫なの?」
久々の学校。桃佳を見つけてみなみが駆け寄ってくる。
「おはよう。みなみちゃん。昨日はノートをありがとう。助かっちゃった」
昨日、夕食の時に多希から「友達が置いていってくれたみたいだよ」と、渡されたノート。字を見てすぐにみなみのものだとわかった。
全て昨日のうちに書き写したノートをみなみに手渡す。
「ありがとう。みなみちゃん」
「うん。で、どうなった?」
「どうなったって?」
みなみは勿論、駿とのことを聞いたのだけれど、わけの分からない桃佳は、きょとんととした瞳で彼女を見た。
「ノートは分かりやすかったよ。ちゃんと全部書き写したし……」
小首をかしげている桃佳。みなみはそれで、駿と桃佳が会えなかったのだろう事がはっきりとわかった。
「そっか……駿君もタイミング悪いな」
口の中で小さく呟く。
「何?」
「ううん。なんでもないの。それにしても、ちゃんと治ったの?」
みなみは胸の前で手を振って誤魔化す。
二人が会えていないのならば、自分が口を出す問題ではないと、そう思っていたから。自分が渡したノートがきっかけで二人が会ってこじれでもしたら、それはどうにかしようと思うものの、結局会えなかったのならば、それはもう二人がこの後どうにかしなければならないことだ。
お節介のしすぎはあまりいい結果を生まないことを、みなみはよく知っている。
「なんかまだ熱のありそうな顔してるみたいだけど?」
みなみが自分の額と桃佳の額を触り比べて、少しだけ顔をしかめる。
「……うん、実はまだちょっと完全ではないんだけど。でも、今日の講義は授業数も少ないし、きちんと単位とっておかなくちゃいけないから」
「確かにね。でも、大丈夫?」
「うん。大丈夫。ありがとう」
心配そうに自分を見るみなみの瞳と、今朝の多希の心配そうな顔が重なる……




「モモ、いいかい。まだ熱もあるんだし、学校に行こうなんて思わないように」
多希はそう言うと、念を押すように桃佳の前に長い指を一本立てて見せた。その指には、絆創膏が貼られている。それも、大きめの。
「どうしたんですか? この指」多希の話よりも、指の絆創膏が気になって、桃佳はその指をまじまじと見つめた。
その視線に気が付いて、多希がぱっと手を隠す。
「どうしたんですか? ……怪我ですか?」
「まあ、ちょっとね」
駿の手紙と共に焼いてしまった指先。そこはまるで駿が抗議でもしているかのように、じくじくとした痛みを多希に与え続けていた。
「とにかく」こほん。と誤魔化すようにひとつ咳をする。「今日はちゃんと家にいること。いいね?」
「えっと……でも、今日は受けたい講義があるんですよね」
「まだ熱の下がっていない奴が何を言ってる。ちゃんと休んでないとダメ!」
「でも」
「休みなさい」
反論を許さないような多希の勢いに押され、桃佳は口籠もる。
「とにかくいいね、ちゃんと休んでいるんだよ。……今日はどうしても仕事に行かなくちゃいけないから。……くそ、科長の奴、もう一日くらい休みくれてもいいのに」
最後の方は、どうやら上司への愚痴のようだ。
「解ったね、モモ。ちゃんと休んでるんだぞ!」
昨日休んでしまったためか、それとも元々早い時間に家を出るのか、桃佳が家を出るよりもずっと早く出勤の準備を済ませていた多希は、何度も何度も桃佳に念を押す。
桃佳の体調を心配してくれているのは解る。けれど、彼女は多希の態度にそれ以外のものを感じていた。まるで、何か不安を隠しているような……
「モモ、ちゃんと家にいるんだよ」
最後にもう一度強く桃佳に迫る。焦っているような、不安そうなその態度に、彼女はつい頷いてしまったのだ。頷いた桃佳に柔らかく微笑んで、多希は桃佳の部屋を後にしていった。



けれど、桃佳はこうして大学に出てきてしまった。
心配してくれている多希に嘘をついてしまったのは心苦しかったものの、どうしても休むわけにはいかなかったのだ。
講義を聞きながら、桃佳は熱い息を吐いた。どうやらやはり、まだ身体はあまりいい状態ではないようだ。それでもなんとか、その日の講義を全て受けることができた。

「桃佳、大丈夫? 顔色、あんまり良くないけど……」
声をかけてきたみなみに、桃佳は力なく笑う。
「んー……やっぱりちょっと辛いかな」
「だろうね。もう今日は掃除いいから帰んな」
実習室の掃除当番だった桃佳に、みなみは「私が代わるから」と鞄を差し出す。
いつもならば遠慮する桃佳も、さすがに今日はあっさりと彼女の提案を有り難く受け入れた。
「ありがとう。ごめんね、みなみちゃん」
「また。ごめんねは言わなくっていいって前にも言ったでしょ? ほら、気を付けて帰んな」
みなみから鞄を受け取り、手を振り教室を後にする。
早く家に帰って、ベットにもぐり込みたい気分だった。計らなくても確実に熱が上がっていそうだ。薬を飲んで、おとなしく横になろう……そう思っていた。
そう思いながら外に出た桃佳の目に入ってきたのは、彼の姿だった。


「駿ちゃん……」

その呟きが声になっていたかどうか、桃佳にはわからない。ただ、身体の中の血が全て逆流するような感覚に、一瞬全ての音さえも遠ざかるようだったのだけは覚えている。
足は凍りついたように動かない。じっと駿から目を逸らせずにいると、駿が桃佳に気付いて駆け寄ってきた。
ずきり、と身体の中心に痛みが走り、あの日のことが鮮明に蘇る。桃佳は思わず鞄を胸にきつく抱き締め、ぎゅっと強く目をつぶった。
足音が桃佳の前で止まる。
「……清水」
うるさいくらいの鼓動に、久しぶりに聞く駿の声が混じった。
大切な恋人の声のはずなのに、桃佳は閉じた目をどうしても開けることができない。
目は開けなくても、彼の息遣いはわかる。駿が大きく息を吸い込んだ気配に、桃佳は息を止めて身構えた。

「ごめん、清水。俺、ひどい事をした」

目の前で怯えたように鞄を抱き締め、目を閉じる桃佳に向けて、出来る限り真剣に真摯に謝罪の言葉を口にして、駿は深く頭を下げた。
こんなふうに謝って、それで許してもらえるとは駿も思ってはいない。それでも、許されなくても、どうしても謝罪をしたかった。
「本当に……ごめん!」
謝ったものの、その後のことは何一つ考えていなかった駿は、頭をあげることもできずにいた。
じっと頭を下げたまま、駿は最悪の結末を思わずにはいられない。

「……駿ちゃん、頭、上げて?」

それは非難するような色を含まない、ただ少し戸惑うような桃佳の声。
視線を上げると、桃佳がおずおずと覗き込んでいた。けれど、その胸にはまだしっかりと鞄が抱き締められている。
「頭、上げて……ね?」
そう言って桃佳は、ぎこちなく微笑む。ぎこちないものの、どうにか駿に笑顔を見せようという彼女の気持ちは、彼にも伝わってくる。
「うん……ありがとう」
ほっとしたように駿も微笑む。
「あのさ、良かったらどこかで少し話ができないかな……」
「……うん。いいよ」
桃佳も駿の提案に頷く。
ちゃんと話をした方がいい。それは二人の共通の思いだった。


とりあえず近くの喫茶店に入り、向かい合って座る。
駿は大学からここに来るまでの間、いつもそうしていたように桃佳の手をとろうと少しだけ振り返った。けれど少しだけ距離をとるようについてくる桃佳は、しっかりと胸に鞄を抱きしめたままで、手を繋ぐことなどとても無理そうだった。
それが今の二人の距離のような気がして、駿は少しだけ落胆したのだった。

とりあえず注文した飲み物が目の前に運ばれ、それに口をつけたりしながらも、二人とも口を開くことができずに気まずいような空気が流れる。
店内に流れる音楽に、桃佳が伏せたままだった瞳をふと上げた。
それはいつか、駿と共に聞いた曲。桃佳がいい曲だと言って、そんな一言を覚えていた駿が、初めて桃佳が彼の家に行ったときに用意していてくれた曲……
それは多希に初めて会った次の日。
全てが変わり初めてしまった頃。駿との関係を必死に守ろうと思っていた頃。心から大切だと思った駿……
桃佳にとって、駿はかけがえのない存在。
それは今も変わってはいない。曲を聴きながら、桃佳はそんなことを思い知らされた。

「駿ちゃん。ごめんなさい」
先に口を開いたのは桃佳の方だった。
「……どうして清水が謝るの? 酷いことしたのは……俺の方なのに」
駿は驚いたように目を開き、すぐに俯いた。
「だって、駿ちゃんがあんなこと……したのは、私のせいだから」
隠し通してきた多希との関係。隠していたとはいえ、それはきっと少しずつ漏れ出し、駿にも伝わっていたに違いない。そしてそれが駿を一時的にしろ、壊してしまった。
「だから……ごめんなさい」
「ちがっ!!」思わず大きな声を出し、駿ははっとして声を落とす。「違うんだ、清水。俺が勝手に色んなこと考えて、訳がわからなくなって……そのせいなんだ。本当に酷いことをしたって思ってる。謝ったからって、許してもらえるとは思ってないよ」
桃佳が何かを言おうとしたとき、駿のポケットで何かがちりんと音を立てた。
「……駿ちゃん、それ」
桃佳が駿のジーンズのポケットに突っ込んである携帯から、ぶら下がるストラップに目を留める。それは、あの日駿に投げつけたものに他ならない。
「ああ、これ?」
駿が照れくさそうに携帯を取り出す。
ちりん、と小さな鈴の音を立てて駿はそれをテーブルの上に置いた。
「これ……あの日からずっと付けてるんだ。あの日、この鈴の音を聞いて、自分がどれだけ馬鹿なことをしたのかって気が付いたんだ。……だからすぐに清水のことを追いかけたんだけど、見つけられなくて……ずっと、謝りたかった……」
ぎゅっと、駿がストラップを握り締める。強く握り締めた指先は、血の気が引いて白くなっていた。
「勝手かもしれないけど……許してもらえるとは思ってないって、そう言ったけど……許して欲しい。本当にごめん」
駿の寄越す苦しげな瞳に、桃佳の胸も痛んだ。


「ねえ……駿ちゃん」
ポツリと呟くように言葉を発した桃佳を、駿は息を呑んで見た。
「私たち……元に戻れるかな?」
「え? も、勿論だよ! 清水がそう思ってくれるなら!」
「うん」
目の前で桃佳が微笑んでいる。その事実に駿はほっと胸を撫で下ろした。
「なんか、緊張が解けたら喉が渇いた」
そう言って駿は、手元にあったアイスティーを喉を鳴らして飲み干す。
「私も喉、渇いちゃったな」
桃佳も手元のアイスレモンティーに口をつけた。
ふと目が合い、照れたように微笑みあう。
「すごく……ほっとしたよ。正直、許してもらえないと思ってたから」
申し訳なさそうに呟く駿の言葉に、桃佳は小さく首を振る。
「許さないなんてこと……あるわけないじゃない」


許して欲しいのは、私の方なんだから……


桃佳はそう心の中で呟く。





帰り道、駅まで送ってくれた駿と、手を繋いで歩いた。
久しぶりの駿のあたたかい手。
多希とは違う、手。
繋がれた手をまじまじと見つめ、それから駿を見上げる。その視線に気が付いて、駿も桃佳を見た。
「何?」
微笑んで応える。
その笑顔に、桃佳もまた笑顔で応える。
「ううん……なんでもないよ」


これでいい。
これが正しいカタチ。
この手が私の大切な人。


自分のいるべき場所は駿の隣なんだと、桃佳は強くそう思った。
強くそう思うことで、胸の奥の罪の意識から目を逸らせたのだった。
それからもやもやとした、きっと中を見てはいけない、絶対的に目を逸らし続けなければならない感情からも……

けれど、それが何か桃佳は知らない。


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