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ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


61.いつもと違う彼女

2010.03.25  *Edit 

返却されたDVDを棚に戻しながら、駿はいつもよりも仕事がはかどるのを感じていた。
それは勿論、自分の精神的な部分によるのだということも、はっきりとわかっている。
桃佳に許してもらえたこと。
それが自分をとてもポジティブにしてくれている。鼻歌でも歌ってしまいそうな気分の良さ。浮かれているといってもいいくらいだった。
ちょっとくらい面倒な仕事を頼まれても、全く気にせずに引き受けることができそうだ。

上機嫌のまま仕事を終えてロッカールームに戻ると、先に仕事を上がったはずの美鳥がうな垂れて椅子に座っているのが目に入った。いつもならば、なんだかんだと駿にちょっかいを掛けてくる美鳥が、そういえば今日は全く話しかけてもこなかった。
パタンと、ロッカールームのドアを閉めると、その音に驚いたように身体をびくんとさせて美鳥が顔を上げた。
「……あ、ごめん」
何も悪いことをしていないはずなのに、思わず駿はそう謝っていた。
振り返った美鳥が、今にも泣きそうな顔をしていたから……
「駿。あ、え? 何してるの?」
泣きそうな顔を誤魔化すように、曖昧に笑顔を作って美鳥が答える。けれど、『何しているの?』と聞きたいのは、駿の方だ。シフト通りに仕事を終えているのならば、美鳥は一時間も前に帰っていていいはずなのだから。
「いや……何って、仕事終わったんだ」
様子のおかしい美鳥に、喉まで出かかった言葉を飲み込む。
「へ?」間の抜けたような声を出して時計を確認した美鳥は、歪んだ笑顔で大きなため息をついた。「やだ、何してる……って、それ私のほうじゃない」
両方の掌で顔を覆い隠して俯き、ため息に混ぜるように呟いたその言葉は、消え入りそうだ。
駿は声をかけるべきかどうか分からずに、その場に立ち尽くすしかなかった。
いくら鈍感な駿だって、美鳥の様子を見れば、彼女に何かあったのだろうことくらいは分かる。けれど、だからと言って、どんな言葉を掛けるべきか見当も付かない。
おろおろと戸惑い、それでも声を掛けるべきだと自分に言い聞かせる。
「み」
「駿!! 飲もう!!」
「は、はぁ?」
まさに声をかけようとした瞬間、物凄い勢いで顔を上げた美鳥は、思いもよらない言葉を口走った。……しかも、その表情は少しだけ怒っている。
「駿、この前約束したよね! 今度一緒に飲んでくれるって。だったら、今日、その約束守って」
「きょ、今日……? また、そんな急な……」
確かにこの前そんな約束をしたような気はする。いや、確かにそんな約束をした。
「急でも何でも、約束したんだからいいでしょう? それとも、これから予定でもあるの?」
指を突き出して駿に詰め寄るその顔は、やはりどこか怒っているようだ。何に怒っているのか……そんなことは駿には知りようもない。
「いや、予定はない、けど……」
「けど、なあに?」
据わった目は、もう既にアルコールが入っているのではないかと駿に思わせた。けれど、次の瞬間、美鳥の表情は寂しげに揺れた。
「……少しだけ、話とか聞いてもらいたいだけなの。ひとりに……なりたくないの」
いつも強気な彼女からは想像できないような、寂しげな顔。この前も、自分にすがって泣いていた。
そんなことを思うと、駿はここで美鳥を突き放すのは、あまりにも酷いことのように思えてきた。一瞬、桃佳の顔が脳裏を過ったものの、美鳥と居酒屋かどこかで少し飲むくらいは問題がないと瞬時に判断する。
「……分かったよ。じゃ、どっかで少し飲みますか」
「ホント!? やった! ありがとう!!」
さっきまで悲しげに揺れていた美鳥の顔が、ぱっと輝くような笑顔を作る。
そんな顔を見ると、駿もどことなくくすぐったいような気持ちになった。




「好きなところに座ってね」
「はあ」

何がどうしてこうなってしまったのか、居酒屋かどこかで飲むものだと思っていた駿は、コンビニで大量のアルコールを買い込んだ美鳥に、彼女の部屋まで連れてこられてしまったのだった。
さすがに美鳥の自宅で二人きりはまずいと思ったものの、美鳥はそんな心配をする駿を笑い飛ばした。
「ただ飲むだけなのに、なに心配してんの? それとも駿は、私と二人っきりだとイケナイ気持ちにでもなっちゃう?」
……と。
そこまで言われると、彼女の部屋に行かざるを得ない。行かないということになれば、それは美鳥を意識しているということになってしまうから。
こうして、変な自意識をくすぐられた駿は、まんまと美鳥の一人暮らしの部屋にお邪魔することになったのだった。

「ささ、飲みましょう。好きなの取って。ほらほら、かんぱ~い!」
床に胡坐をかいて座り込んだ美鳥は、ビールの缶を開けて強引に乾杯すると、喉を鳴らして一気に煽った。その飲みっぷりに、駿は一瞬呆気に取られる。アルコールが弱いだなんて、きっと嘘だと……
「ほおら、駿も飲んでよ。いっぱい買ってきたんだから」
「はあ」
駿も自分の缶ビールを開け、少しだけ口をつける。美鳥の飲みっぷりを見ていると、それだけでお腹がいっぱいになってしまいそうだ。当の彼女は、既に二本目に手を伸ばしている。

それにしても……と、駿は美鳥の部屋を見渡した。濃いものから薄いものまで、目がちかちかするような様々なピンク色と、可愛らしいぬいぐるみに溢れた部屋。どちらかというと、シンプルにまとまっている桃佳の部屋とは正反対。『女の子』を強調したかのようなその部屋は、最初のうちこそ居心地が悪かったが、時間の経過と共にそれほど気にはならなくなってきた。
「何? 女の子の部屋がそんなに珍しい?」
駿の気持ちを読んだかのように、美鳥が駿を見ている。
「いや……彼女の部屋とあんまりにも違うから、ちょっとびっくりしただけ」
その言葉に、意外とでも言うように美鳥は目を丸くした。
「へえ、駿って彼女いたんだ? てっきりフリーかと思ってた」
「……失礼だな。俺だって彼女くらいいるよ」
そう言いながら、彼女のペースに釣られて駿もいつもよりも速いペースでビールを空ける。すぐにご丁寧にもリングプルを開けた缶が差し出された。
「仲いいの?」
何気なく聞かれた一言に、駿の心はちくりと痛んだ。確かに今日、桃佳とは仲直りをした。けれど、自分を守るかのようにしっかりと胸に鞄を抱きかかえるその姿を思うと、自分がまだ完全に受け入れられてはいないのだと思わずにはいられない。
その後に繋いだ手も、それまでのように自然にという訳にはいかず、やはりどこかぎこちなかった。
駿は一瞬眉をひそめると、ぐっとビールを煽った。
「うん。この間までちょっと喧嘩していたんだけど、今日仲直りしたんだ」
わざとそう言葉に出すことで、自分を安心させようとするかのように。
「そっか。だから今日の駿は、何だか変に浮かれていたわけか」
美鳥はくすっと笑う。それから急に黙り込んでしまった。

何を考えているのか、さっぱり分からない美鳥の横顔。
暫くその横顔を見つめ、駿は気になっていたことを思い切って口にした。
「美鳥は……何かあったの? 俺に何か聞いて欲しかったんじゃないの?」
駿の言葉に目を上げ、美鳥は「はは」と乾いた笑い声を出した。彼女に似合わない、弱々しい笑い声。それから大きなため息をつく。
「……振られちゃったんだよ。彼氏に」
そう言って、またしても勢いよくビールを飲む。彼女の周りにはもう、空になった缶が5本も転がっている。そういう駿も、もう4本目のビールがなくなろうとしているところだ。
「凄くくだらないことで喧嘩しちゃって、喧嘩別れしちゃたのね。でも……ずっと彼からの連絡待ってたの。きっと、『ごめん』って言ってくれると思って。それなのに、全然連絡も来なくって、我慢できずに連絡したら、『今更何の用だ』って言われたの。それで……ああ、あの時のやり取りは駿にも見られてたっけ」
この前バイト後に美鳥が電話をしながら相手を大声で罵っていたことを思い出す。あの時の電話の相手は彼氏だったのだ。
「あの時の」
思い出したかのように頷く駿に、美鳥は苦笑いを見せる。
「そう。でもね、あの後すっごく後悔して、今日もう一度電話したの。そうしたら……あいつ、『もう彼女ができたから、二度と電話してこないでくれ』だって。あんまりにも酷いと思わない?」
美鳥の瞳に、じんわりと涙が盛り上がる。
「たった数日だよ……? 私が悩んでいる間に、もう彼女ができてるって、あんまりじゃない」
必死に涙を堪えながらビールを飲む姿を、駿は見つめることしかできないでいた。
暫く黙ってビールを飲んでいると、美鳥が急に腕で目の辺りを擦って、ぱっと顔を上げた。
「でも! もういいの! 終わっちゃったことをうじうじ考えてたって仕方ないんだから、今日はとことん飲もうよ!! いいよね?」
『いいよね?』
と、疑問系で投げかけてきているくせに、彼女の睨むような視線は、断ることを許さないような強いものだ。駿は諦めた様な気持ちで肩を竦める。それから飲みかけの缶を美鳥に向かって差し出した。
「じゃ、仕切りなおして乾杯」
「うん、乾杯!」
嬉しそうに差し出された缶に、自分の缶をぶつける美鳥。

まだまだコンビニの袋の中には、大量のアルコール飲料が詰まっている。
暫くは帰れそうもないな、と、駿は覚悟を決めたのだった。


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