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ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


63.繋がる想い

2010.03.25  *Edit 

「孝幸さん。お待たせしてしまってすいません!」
息を切らしながら、咲が喫茶店に駆け込んできた。栗色の髪をひとつにまとめ、白いブラウスにフレアスカートといった様相は、店で見る彼女とは全く別人に見せてくれる。
「いや、大丈夫。俺も今来たところだから」
「そう? よかった」

二人が初めて出会ってから三ヶ月。
あれから孝幸は、時間を見つけてはあのクラブに通い、ローザ……咲のことを指名し続けた。初めて店以外の場所で会う約束をしたのは一ヶ月前。それから個人的に連絡を取り合っては、こうして会うようになっていた。
ポケットベルが一般的な時代。
しかも孝幸は社長である父の元で、修行も兼ねて秘書のような役割も果たしていた。簡単に連絡は取り合えない。だから連絡を入れるのはいつも孝幸からだった。
夜の仕事の時間以外は、咲は病院か自宅にいた。最近知ったことだったのだけれど、咲の父親は小さい頃に亡くなり、母親がずっとひとりで彼女を育ててくれたらしい。咲の母親はフランス人だ。日本語も堪能だったが、その外見から働く場所はそう多くはなく、かなり苦労をしたらしい。そんな彼女の母親も、半年前に病気で倒れてしまったのだ。
それまで昼間の仕事をしていた咲も、母親の入院費のこともあり、昼間の仕事を辞めて稼ぎのいい夜の仕事に移ったのだという。それでもやはり外見が日本人ではないため、今の店に勤めるまでは、何軒も断られたそうだ。

孝幸は目の前でカフェオレを飲む咲のことを見つめた。
仕事は忙しく、正直こんなふうに喫茶店で時間を潰している場合ではない。それでもほんの少しの時間を見つけては、咲に連絡をしてしまうのだった。
「どうしたの?」
ふと目を上げて、ブルーグレーの瞳が孝幸を捉える。そして、ふんわりと微笑んだ。
そう、この笑顔が見たくて、どうしてもこの笑顔が見たくて、孝幸は詰まったスケジュールの中から僅かな時間を見つけるのだ。
もうこれは病気に違いない、そう彼自身も自分のことを分析する。咲に会えない日は、瞼の裏に焼きついたかのような彼女の残像で眠れず、仕事には身が入らない。これではいけないと思いながらも、ただ彼女に会うためだけに過ごすような日々を送る……
『恋だ』と自覚しないわけにはいかない。とても誤魔化しようがない。

「孝幸さん? 孝幸さんたら。お疲れなんじゃないですか?」
覗き込む咲と視線が絡み、孝幸は早鐘を打つ心臓を静めようと、コーヒーに口を付けた。
もう二十六という年齢ではあったものの、それまではそれほど女性に興味がなく、建設の勉強の方に打ち込んできた彼にとっては、久しぶりの恋であり今までのどれとも違う恋だった。
いや、愛と言ってもいい。
「い、いや。大丈夫だよ。それよりも、咲のお母さん、調子はどうだい?」
孝幸の言葉に、咲の長い睫が悲しげに伏せられる。
「……あまり、良くないの。抗癌剤(こうがんざい)も効いてないみたいで……先生には、覚悟はしておいた方がいいって、そう言われました」
聞いてしまったことを後悔しながら、「そうか、すまない」と小さく呟くように言った。その言葉に咲は大きくかぶりを振る。
「いいえ。孝幸さんにはこうしていつも外に連れ出してもらって……本当に気分転換になっているんです。お仕事だってお忙しいでしょうに、私のために時間を割いていただいて、本当に申し訳ない気持ちです」

申し訳ないなんてことは少しもないのに。

心の中でそうは思っても、その思いを口にすることはできない。もしも、その思いを口にしてしまったら、もう咲と会えなくなってしまうのではないか……そう思うと、孝幸はまるで少年のように臆病になってしまうのだ。
咲の自分に対する気持ちが知りたい。けれど、それを知るのがどうしても怖い。けれど、このままでいるのはもっと辛い。最近、母親がお見合いの話なんかを持ってくるので、それで余計に焦っているのかもしれなかった。とてもではないが、咲以外の人と結婚など今の孝幸には到底考えられそうもない。
「咲」
名前を呼ぶと、彼女はいつだって真っ直ぐに彼の瞳を見つめ返してくる。赤く傾きかけた日の光を受け、白い肌がうっすらと夕焼け色に色づき、どこか艶かしい。思わずごくりと息を飲んでしまうくらいに。
「なんですか?」
いくら待っても次の言葉を発しない孝幸に痺れを切らしたように、咲の方から声をかける。
「……咲は、その、俺のことをどう思っているのかな?」
とうとう口にしてしまった言葉。言ったそばから孝幸は軽く後悔する。咲の返事次第では、もうこんなふうには会うことはできないに違いないだろうから。けれど、そんな恐怖心よりも、もう彼の気持ちは何か形のあるものを求めてしまっていた。
ちらり、と見ると、夕日に照らされているせいだけではなく、咲は頬を薔薇色に染めて唇を引き結んで俯いている。
女神のように美しい咲。孝幸にとっての女神が。
「そんなこと……」
呟くように言って、更に俯く。
そんな彼女の様子に後押しされて、孝幸はテーブルの上で彼女の手を包み込むように握った。初めて触れる彼女のぬくもり。あたたかさ。滑らかな肌は、彼の掌に瞬時に馴染んだ。
「咲。俺は咲のことが好きなんだ。多分、初めて会ったあの日から……結婚を前提に、俺のことを考えてはくれないだろうか?」
孝幸の言葉に咲の瞳には涙が盛り上がり、頬を伝い落ちる。そしてまた盛り上がり、涙は止めどなくその頬を伝う。
そっと触れて、彼は夕日に煌く涙を拭った。それまで触れたことがないような、温かな涙。
「咲?」
「……とても嬉しいんです。とても……だけど、私なんかでいいんでしょうか? だって、孝幸さんは柴山建設の次期社長になる人です。私は……ホステス。あまりにも違いすぎます。認めてもらえるはずがありません」
咲は悲しげに瞳を伏せる。
咲自身、孝幸と自分が釣り合うなど思ってもいない。
だからこそ孝幸に対して芽生えつつあった思いを、見ないようにしてきたのだから。
「それは……!」
確かにこれからの自分の立場を考えると、簡単に咲との結婚など認めてもらえないだろうことは、孝幸にも痛いほど分かっている。それでも、それでも譲れないものがあるのだとしたら、彼女のほかにはない。
孝幸は、俯いたままの咲の手を力強く握る。
「咲、確かに反対されることもあるかもしれない。けど、俺は君以外の人は考えられないんだ。咲さえ俺と一緒に頑張ってくれると言ってくれたら、俺は……どんなことをしても周りを説得するよ」
「孝幸さん」
彼の手に包まれた咲の手が、ピクリと緊張する。その顔は、『本当にそれでいいのだろうか』と言いたげな、困惑したような表情。
「それではあなたが大変な目に遭ってしまうんじゃないんですか? 私は……私のせいで、あなたが辛い目に遭うのは、嫌です。それならいっそ」
「咲!」

それならいっそ……

その言葉の先を言わせたくなくて、孝幸は強引に彼女の言葉を遮る。
その先の言葉はきっと、『なかったことにしましょう』とか、『もう会うのはやめましょう』といったものに違いない。
それは孝幸が最も望んでいない言葉だ。
「咲、咲……俺は君の事を愛してるんだ」
初めて口にした咲への愛の言葉。いや、今まで誰にもそんなことを口にしたことはないし、これから先も、口にすることはないと思っていた言葉。その言葉が、何の抵抗もなく彼の口から零れ落ちた。
「愛してる」
もう一度言って、さっきよりも強く彼女の手を握り締める。
まだ涙の乾かない瞳を瞬かせ、咲は孝幸を見つめた。
その瞳の中には、今だに消えない戸惑いが揺らめいている。そんな揺らぎを消し去りたくて、「愛してるんだ、咲」彼はもう一度、その言葉を口にする。
彼女から不安な揺らめきが消えるまで、何度だってその言葉を囁こう、そう心に決めて。

真剣に見つめる孝幸の視線を真正面から捕らえ、少しだけ眉をひそめ目を細める。
「……本当に、いいんですか? 私で……本当に?」
「ああ、ああ。勿論だよ、咲。君じゃなくちゃ、駄目なんだ」
何度も頷きながら、孝幸は彼女に微笑みかける。
孝幸の笑顔に、咲もふわりとした笑顔で応えた。
二人の気持ちが繋がった瞬間。

運命が動き出す……

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