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ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


64.最後の手段

2010.03.25  *Edit 

孝幸は自室のソファに身を沈め、深い深いため息をついた。心も身体も、悲鳴を上げそうなほどに疲れ切っている。

……何もかもが上手くいかない。

膝に肘をつき、うな垂れた頭を両手で支える。目を閉じると眠りがその触手を伸ばして、彼はずるりと夢の世界へ引きずり込まれそうになる。その眠気を頭を振って追い払った。


咲と交際を始めて2ヶ月になる。
あの後、すぐに両親にも結婚を前提に付き合っている女性がいることは伝えた。驚きながらもそのときは喜んだ両親。けれど、その相手のことを知った途端に掌を返すように反対をはじめた。
理由は簡単。
咲の仕事が夜の仕事だから。
彼女が純粋な日本人ではないから。
特に反対をしたのは、孝幸の母|好乃(よしの)だ。好乃は先代の社長である祖父の娘。つまり孝幸の父は柴山の家に婿養子に入ったのだ。だからこそ、会社のことには口を出さないものの、家の問題になると途端に決定権は好乃のものになる。
それほど大きな会社でもないのに、好乃は柴山の名に拘っていた。だからこそ、その『柴山家』に日本人でもない、ましてや夜の仕事をしている咲を受け入れられない。それに、事情はそれだけではなかった。折からの好景気、建設会社にはたくさんの仕事が、それこそ手が足りないほど舞い込んできていた。会社を大きくするには、他にはない好機。好乃はできれば、会社のためになるような、条件のいい結婚を孝幸にずっと求めていたのだ。
それが、選んだ相手はよりにもよってあまりにも理想とは違う。
認められない好乃は、決して首を縦に振ろうとしなかった。


「どうすればいいんだ……」
静か過ぎる部屋の中で一人、孝幸は呟く。誰かに問い掛けるように呟きはしたものの、彼自身誰も答えてくれないことは分かり切っている。
咲は結婚のことは何一つ口にしない。頭のいい彼女のこと……反対に遭っているのは感付いているに違いなかった。
それでも彼女は責めることも、追い詰めるようなこともしない。それどころか、最近では身を引こうというかのように、連絡が付かないことが多かった。

「咲……」

孝幸は一冊の本を開き、挟まっている写真を手にする。
付き合い始めてすぐの頃、二人で出かけた海辺でカメラを向ける孝幸に、はにかみながらも花のように微笑んだ咲……
いつからか、咲のそんな笑顔を見ていない。きっとそれは、全く余裕の欠片もない自分のせいだ。あんなにも愛しいと思った咲の笑顔。それを消してしまっているのが自分だというのは、身を切られるかのようだった。
どうにかして両親を説得しなければ。
焦燥感は膨れ上がる一方なのに、解決の糸口がまるで見つからない。
孝幸は咲の写真を元に戻すと、再び頭を抱えて深いため息をつくしかなかった。




「孝幸さん。もういいわ」
穏やかに微笑みながら、咲が孝幸の最も恐れていた言葉を口にしたのは、久しぶりにゆっくりと会えた日の午後だった。決して投げやりに言っているのではない、咲のきっぱりとした口調。
「いいって……何が?」
分かりきっているのに、自分の中の不安を否定して欲しくてそう呟く。
「結婚。やっぱり私とあなたとじゃあ、とても釣り合わない。ご家族、反対なさっているんでしょう?」
咲には彼が言わなくても、反対にあっていることなどもう分かっていた。それでも、ほんの少しの希望を繋ぎながら今日まで待っていた。けれど、疲れきった孝幸の顔を見ると、自分が待つことが彼を苦しめているだけにしか思えなくなったのだ。
「あなたにこれ以上は、辛い思いをして欲しくはないんです……」
そう言いながら、少しだけ悲しげに微笑む。
「辛い思い?」孝幸は彼女を真っ直ぐに見つめる。大事なことが、すとんと胸の中に納まった気分で。「辛いのは……咲を失うことだよ。それ以上なんて、ない」
本当に大事なこと。
それを最愛の人の口から最も辛い言葉を引き出すまで気が付かなかったなんて……思わず自分の情けなさに、孝幸は苦笑した。
「孝幸さん?」
「そうだよ、咲。君を失うこと以上に辛いことなんて考えられない。大丈夫だから、もう心配しないで」
彼女の細い指先をしっかりと握り締める。まるで自分自身を奮い立たせるかのように。




「……っあ、た、かゆきさん……んっ! ダメ、今日は……はあん!!」
咲はいつもよりもずっと激しい彼の行為に、身を捩る。あまりに激しい行為に、『今日は危険日だから』その一言さえもかき消されてしまう。それ以上に、まるでその先を言わせないかのように、孝幸は咲の足を高く持ち上げて腰を打ち付けている。
「あっ……あっ……たか……っ、だ、めえ……」
頭の中が白くなり、身体に力が入る。近づく絶頂に、呼吸さえもままならない。咲に合わせるように、孝幸も一層深く腰を打ちつけ、二人同時に果ててしまった。
ぐったりと身体を投げ出す咲を抱きしめる。抱きしめられた咲は、困ったような顔で彼の顔を見上げた。
「……孝幸さん……こんなのダメだわ」
咲が言っているのは勿論、避妊もしなかった今夜の行為のこと。
「うん。そうだね、悪かったよ」
「ちゃんと、してね?」
「ああ」

そう言ったものの、孝幸は咲に会う度に彼女を求め、その度に同じように彼の欲望を彼女の中に放出した。抵抗ができないくらいに、激しい行為を伴って。
それは彼の思惑。
子供ができてしまえば、もう反対もできないに違いない……


そうして咲は、彼の思惑通りに妊娠した。




「どうしたらいいの……?」
困る咲に、孝幸は微笑みかける。
「これでよかったんだよ。もう誰も反対できないから……咲は心配しないでお腹の子を大事にしてくれたらいい」
「! まさかあなた、最初から……!?」
「もう後戻りはできない。すまない、俺に会社を捨てることはできないんだ。でも、君のことも諦められない。こんなことをしても、両親に結婚を認めさせたかったんだ……」
深々と頭を下げる孝幸に、咲はかける言葉も見当たらなかった。それでも、彼の言ったとおり、もう後戻りはできない。それに自分の身体の中に宿っている命は、他でもない愛しい人の子供。この先の道がどうなっていようとも、この命を守る、そのことには変わりはないのだから。
「ちゃんと俺が二人を守るから……」
咲はその言葉に頷くしかなかった。




「母さん、俺はこの人と結婚するよ。……もうすぐ二人の子供が生まれる」

孝幸が咲を紹介したのは、妊娠8ヶ月を過ぎた頃だ。自分の母親を疑いたくはなかったが、早い段階で知らせてしまうと、彼女と子供の身に危険が及ぶかもしれないと考えた末の決断だった。
「子供って、孝幸……!」
好乃は大きなお腹を抱えた咲を見る。あと数ヶ月で生まれてこようとしている命が、その存在感を見せ付けていた。さすがに好乃ももう手が出せない。
「母さん。孫ができるんだよ」
少しでも母親の気を紛らわそうとしたものの、好乃は震える唇を噛み締めるばかりで、無言のままで二人を見つめていた。
『裏切られた』『だまされた』『なんて卑怯な』……
様々な負の感情が好乃を包む。
「好乃。もうこうなってしまっては仕方がない。二人を認めよう……」
夫に肩を抱かれてもなお、好乃はきつく唇を噛み締めたまま。それでも反対する言葉はもう口にすることもできない。
生まれてくる命を止めることはできないのだから……

生まれてくる命に罪はない。
ましてそれは大事な息子の子供。
初めての孫。

それでも、それでも好乃は、息子の隣で大きなお腹を抱えた咲に沸きあがってくる憎しみを、抑えることができなかった。




二ヵ月後、咲は男の子を出産した。

『多くの希望に満ち溢れた日々を送れますように』

その子は『多希』と名付けられた。
孝幸と咲、二人の祈りに包まれて。



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