りんどう庵

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit TB(-) | CO(-) 

りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


67.戸惑う気持ち

2010.03.25  *Edit 

目が覚めると彼の姿が見当たらず、桃佳は部屋の中をぐるりと見渡した。
まるで自分が多希の姿を探しているかのようで、「そんなんじゃないもん」とわざと小さく口に出して呟き、俯いた。

昨日、多希に作ってもらったカルボナーラを二人で食べた後、彼が洗い物をしている間に眠り込んでしまった。それほど熱があったわけでもないのだけれど、疲れていたのかもしれない……
次に目を覚ましたのは、時間は分からないものの多分夜中。寝返りをうとうとしたときに、手を引っ張られる感覚を覚えて目を開けると、ベットに寄りかかるようにして、多希が桃佳の手をしっかりと握ったままで眠り込んでいた。
身体を起こし、少しだけ驚いたような気持ちで桃佳は彼を見つめた。
どうしても、自分を利用しようとしているだけの人の行為には見えなくて……病院に連れて行ってくれたときもそうだった。点滴をしている間に眠り込んでしまった時も、多希はこうして桃佳の手をしっかりと握っていた。

何を考えているんだろう……?
一体、どうしたいんだろう?

いくら夏だといっても、夜中はどうしても少しだけ寒い。
ぶるりと身体を震わせて、考えても答えの見つかりそうもない疑問から、無理やりに抜け出す。
何も掛けていない多希の身体は冷たく、桃佳の手を握っている手だけがほんのり暖かい。このままでは風邪を引いてしまうと思い、布団を掛けようとしたものの、多希はどうしても手を離してくれずに来客用の布団を取りにいくこともできないでいた。
桃佳は考えた末にベットに突っ伏すように眠っている多希の身体を、どうにかして床に寝かせると、そっと自分も多希の隣に横たわった。そしてベットから布団を引っ張って二人の上に掛ける。
小さな布団。出てしまわないようするには、どうしても身体を寄せなければならない。冷え切っていると思っていた彼の身体は意外にも暖かく、触れている部分から熱が伝わってくる。
自分のものではない熱。妙にくすぐったくて、桃佳は布団からはみ出さないぎりぎりまで離れて背を向けた。
起こせばよかったのに。
今更ながらそんなことを考える。以前だったら、迷うこともなく起こしていたに違いない。それが、自分から進んで多希の横に寝ている。自分でも制御できない自分の行動に戸惑いつつも、動くこともできずにそのまま眠りに落ちた。


そして、眩しい光の中で目を覚ました桃佳の隣に、多希の姿はもうなかった。それどころか、床で寝ていたはずの体が、きちんとベットの上にあった。目を覚ました多希が、桃佳の身体をベットの上に戻して自室に帰ったのに違いない。

時計をちらりと見る。もうすぐ8時になろうとしていた。土曜日といっても、駿との予定はない。この前のことと桃佳の体調をを気にしてか、昨日駿は週末の予定については何も言わなかった。それは……正直桃佳の心を少しほっとさせた。二人きりになっても、何を話していいのか分からないから。気まずい空気が流れるのは、とても怖い気がしていたから。
「多希さん……起きてるかな?」
小さく口の中で呟く。
ここ数日、多希にはすっかり面倒を掛けてしまった。体調もよくなったようだし、そのお礼をしなければと思う。
とにかく多希の予定を聞いておこうと、桃佳は着替えをして彼の部屋へと行ってみることにする。
髪の毛を後ろで束ね、服に着替える。玄関を出て、隣の部屋へ。チャイムを押そうとして、伸ばした指をいったん引っ込めた。思ってみれば、多希からの誘い、もしくは強引に連れて来られた以外に、自分から彼の部屋を訪ねるのは初めてのことだ。
そんなことを思うと、何となく気恥ずかしく、ほんの少し脈拍が上がるのを感じた。
「……何恥ずかしがってんのよ、バカ」
自分自身に向けてそう呟くと、思い切ってチャイムに指を伸ばしてそのボタンを押した。
「あれ?」
確かにチャイムが鳴ったはずなのに、多希の部屋からは物音ひとつ聞こえない。
もしかしたら用事で出かけたのかもしれないし、仕事かもしれない。そう思いつつも、桃佳はドアノブをそっと回してみた。するとそれは何の抵抗もなく開いてしまった。
用心深い多希。とても家の鍵を掛け忘れたとは思えない。
不審に思って……そんな軽い不安ではない。どうしようもない不安感に体中を支配されて、桃佳はドアを勢いよく開けて、考えるよりも先に彼の部屋に飛び込んでいた。

「多希さん!!」
居間のドアを勢いよく開けて、震える声で叫ぶ。
耳元に心臓があるのではないかと思わせるほど鼓膜に響く鼓動は、視界までも揺らすようだ。しかし、桃佳はすぐにベットの上に横たわっている多希の姿を見つけることができた。
「……多希さん」
ほっと息をつきながら、ベットに駆け寄り、その顔を覗き込む。
ちゃんと息をしている……確認した途端に、桃佳はその場にへなへなと座り込んだ。そして一気に我に返り、激しく動揺する。さっき感じた目が眩むほどの不安感に。それほどの不安感に支配されてしまった自分に。
そんなに不安になることなど、よく考えればなかったはずだ。それなのに、多希に何かあったんじゃないかと思った瞬間、理性よりも体が勝手に動いてしまっていた。
それはナゼ……?
「……モモ?」
深い思いの海に沈みこみそうになっていた桃佳は、その声に慌てて顔を上げる。半分だけ瞳を開いた多希が初めはぼんやりと、それから驚いたように目を見開く。
「モモ? 何してるの?」
大きく開かれた瞳に、自分の姿がはっきりと映って、桃佳は思わず目をそらした。
「な、何って……チャイムを押しても返事がないし、鍵はかかってないし、何かあったんじゃないかと思って」
ごにょごにょと、まるで言い訳でもするかのように話す桃佳を多希は微笑んで見つめ、手を伸ばすとその大きな手で彼女のくせっ毛をそっと撫でた。
「心配してくれたわけか……ありがとう。モモ」

手を伸ばして桃佳の髪の毛に触れると、彼女は亀のように首をすくめて、ぎゅっと目をつぶり俯いている。その頬はほんのりと赤い。
多希はいつもとは少し違う反応を見せる桃佳を不思議に思いながらも、そんな彼女が可愛らしいと心から思う。どうしても触れたくなり、そっと体を伸ばして、ぎゅっと目を閉じたままの桃佳の柔らかな頬に触れるだけのキスを落とす。
その瞬間に、桃佳は弾かれたように顔を上げて、目を見開いて多希のことを見た。
「……熱い」
「は?」
桃佳は多希を見据えたまま、眉をひそめる。真っ赤になって目をそらすことを想像していた多希は、予想外の反応に素っ頓狂な声をあげてしまった。
「熱いじゃないですか!! 熱、ありますね!?」
「え? はあ?」
桃佳は多希の額に触れると、更に眉をひそめて「やっぱり熱い!!」と言ってその体を布団に押し付けた。
「多希さん、私の風邪うつっちゃったんですね!? もう、布団も掛けずにあんなところで寝たりするから……ほら、ちゃんと布団掛けて休んでくださいっ」
ぐいっと肩口まで布団を引っ張り上げられ、もう一度額に触れてくる。
さっきまで赤くなって俯いていた桃佳のこを思い出し、まるで別人のようだと多希は苦笑した。
「なんですか?」
「いや……さっきせっかく可愛かったのに、またいつものモモに戻っちゃったなと思って」
その言葉で、さっき頬にキスをされたことを思い出し、桃佳は頬に手を当てて真っ赤になる。ころころと変わる表情にくすりと笑い、多希は腕を伸ばして桃佳の体を引き寄せて抱きしめた。
細い体はすっぽりとその腕の中に納まり、横たわる多希の体の上に引き寄せられる。
「……っ! 多希、さん!」
柔らかな重み。
優しい香り。
仄かにシャンプーの香りの残る髪の毛に顔をうずめて、そっと囁く。
「……モモのせいで風邪引いちゃったんだ。だから、ちゃんと看病してくれるよね?」
身を捩って逃げようとする桃佳の体を、痛みを感じない程度にしっかりと抱きしめる。どうしても腕の中から逃がしたくはなくて。
「責任とってくれるよね?」
逃げられないと悟ったのか、動きを止める桃佳にもう一度囁く。
「モモ。今日は看病してもらうよ」
多希の腕の中で、桃佳が小さく頷いた。

小さな頷きに、多希は自然に笑みがこぼれた。
企みとか、思惑とかそういったものを含まない、心から溢れたような微笑。
そして自分がそんなふうに笑顔になってしまうことに気がついて、同時に戸惑う。そんな顔を桃佳に見られなくてよかったと。

ゲーム。

浮かんだ言葉を、多希は何度も頭の中で繰り返した。
そうしなければ、戻れない道に踏み込んでしまいそうで……それは多希にとっては恐怖でないしかないような、そんな気がして。

スポンサーサイト



*Edit TB(0) | CO(0)

~ Comment ~

 管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。