りんどう庵

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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


69.違和感と変化

2010.03.25  *Edit 


「え……? 土曜日もバイト入れたの?」

桃佳は思ってもみなかった言葉に、目の前に座る相手を見た。駿は少しだけ申し訳なさそうに笑っている。
「うん。最近バイトがひとり辞めちゃってさ、店長もシフト回すのが大変みたいなんだ。それで、できれば土曜日も入ってくれないかって……」
「そう……なんだ」

学校前まで迎えに来ていた駿とコーヒーショップに入り、何よりも先にその話しをされて、桃佳は少しだけ複雑な思いだった。
駿との時間を大事に過ごそう、とそう思っていた矢先、二人で会う時間がまたも少なくなってしまったと聞かされたのだから。
『自分をしっかりと捕まえていて欲しい』
勝手な願いだと分かっていても、桃佳は駿に対してそう思ってしまう。時々、自分でもコントロールできなくなる自分を、駿にしっかりと捕まえていて欲しいと。けれど、そのことを口に出して伝えることはできない。
「その、ごめんな」
「……ううん、仕方ないよ」
本当は仕方ないだなんて、聞きわけのいいことは言いたくはない。けれど、心とは裏腹にそう言う事しかできない。
「俺さ」
妙にはっきりとした駿の声に、桃佳はテーブルの上を彷徨わせていた視線を上げた。
「バイトで金ためて、清水と旅行に行けたらいいなって思ってるんだ。どっか行きたいところ、ある?」
「えっと……考えてもみなかった、そんなこと……」
「考えておいてよ」
「うん……」
桃佳の返事ににっこりと笑ってみせる駿。その表情に、彼女は小さな違和感を覚える。
『何が』というよりは『何か』。桃佳にもよく説明はできない。けれど、小さな棘のような思いが引っかかった。
「駿ちゃん……」
「何?」
けれど、やはり言葉にすることができない。
駿のことを大事にしたいと思うほどに、桃佳の言葉は喉元で消えてしまうようで、彼女自身そんな自分に苛立ちさえ覚えた。
「清水?」
桃佳からの言葉の先を不思議そうな表情で待っている駿に、小さく首を振る。
「ううん……それより、私、携帯を買ったんだ。前の携帯壊れちゃったから……それで、メモリーも全部消えちゃたから、駿ちゃんの番号とメアド、もう一度入れさせて?」
「そうなんだ。じゃ、教えるね」
駿はポケットから携帯を取り出す。その携帯に、以前渡したストラップは付いていなかった。思わず付いていないのを分かっていながらも、駿の携帯を凝視してしまう。
「どうかした? 言うよ?」
「あ、うん」
けれど、駿は桃佳からもらったストラップが付いていないことさえ気が付いていないかのように、にこやかに番号とメアドを彼女に伝える。そして、彼女の携帯に揺れる、お揃いのはずのストラップにさえ、とうとう気が付くことはなかった。


バイトの時間も迫り、ふたりはいつものように別れた。手を振る駿の姿を、どこかもやもやした気持ちで桃佳は見送る。振り返らない駿を。




部屋に入ろうとして、既に鍵がかかっていないことを知り桃佳はドアノブに手をかけた。勿論、玄関にはいつも見ている多希の靴がそろえられている。
「ただいま……」
何となくそう言って部屋に入ると、缶コーヒーを手にした多希が窓の外を眺めていた。
「ああ、モモお帰り」
「はい。今日は早いですね」
「うん。珍しく定時で終わったんだ」
桃佳が買い物袋をぶら下げているのを見ると、多希は缶を置いて駆け寄り、その手から重そうな袋をそっと受け取る。
「もう体はすっかり大丈夫なのか?」
「はい……多希さんは?」
「ああ、もうこの通り大丈夫。昨日一日寝ていたからね」
にこりと微笑むと、桃佳の手から受け取った買い物袋を、軽々と持ち上げて見せる。
昨日は二人、食事は共にしていたものの、それぞれ月曜日に向けて自室でゆっくりと休んでいたのだった。それが良かったのか、桃佳は殆ど回復したといっていい状態だったし、多希の熱も夜にはすっかりと下がっていた。
「良かった。それじゃあ夕食を作りますから」
教科書の入った鞄を下ろし、いつものようにエプロンをする。多希も買い物袋を台所において、ミントグリーンのエプロンを身に着けた。
「え? 多希さんは休んでいてくださいよ?」
がさごそと袋を漁っていた多希が、じゃがいもを取り出す。
「ふたりでやったほうが早いだろ? これはサラダにでもするのかな?」
子供のように笑う多希の笑顔に、桃佳は少し戸惑いつつも小さく頷く。
「じゃ、俺は皮でも剥くか」
楽しそうにじゃがいもの皮を剥いているその横顔を、桃佳は気付かれないように見つめた。

……そんなカオ、卑怯……

心の中で呟いて、唇を噛む。そしてそんな思いを掻き消すように、自分も夕食の準備を始めた。



いつものように食事を終え、多希は進んで洗い物を請け負う。桃佳はそんな行為に遠慮しているようだったものの、多希としては食器が綺麗になっていくのを見るのが、何となく楽しかった。それまでしたことのなかった『お手伝い』をしているようで。
泡だらけのスポンジに更に洗剤をつけて食器を擦る。いつもなら「洗剤付けすぎです!」という桃佳の声がなく、多希はちらりと彼女を伺った。
テーブルの上に教科書を広げてはいるものの、ぼんやりと空を見つめて頬杖を付いている桃佳。時々、思い出したかのようにこつこつと、シャープペンシルの先でノートを突いているものの、勿論それは文字にもなっていない。
「モモ?」
呼びかけたものの、桃佳はぼんやりとどこかを見つめたままだ。多希は泡だらけの手を洗い、エプロンで拭いながらそっと近づく。
「モモ?」
さっきよりも大きな声で、しかも至近距離から呼びかけられ、桃佳は体をびくんと震わせてから目の前にいる多希に気が付いた。
「わあ!!」
あまりにも至近距離……相手の吐息さえも感じられるその距離に、思わず桃佳は飛びのく。その様子があまりにも可笑しくて、多希はぷっと吹き出した。
「な、なんですか!!」
「いや」多希は笑いを堪えながら続ける。「あんまりにもぼんやりしてたからさ」
「そう、ですか?」
「ああ、もしかしてまた熱が上がってるんじゃない?」
多希はいつもそうしているように、桃佳の額に触れようと手を伸ばした。そのことに気が付いた桃佳が、きゅっと目を閉じ、首をすくめて体を硬くしているのが目に映る。
そんな顔さえ可愛く思えて……もうすぐ彼女の額に触れそうな指先を握り締め、その手を引っ込めた。
「ほら、体温計で熱計ってごらん」
テーブルの上に置いてあった体温計を手に取り、桃佳に渡す。その態度はどちらかというとぶっきらぼうだ。
「あ、はい……」
多希から体温計を受け取り、熱を測る桃佳を見つめる。暫くすると、小さな電子音が聞こえた。
「何度?」
「37度2分です」
「まだ熱があるみたいだね。俺は洗い物をしたら帰るから、モモはゆっくり休むんだよ、いいね?」
「……はい」
そう言うと多希は、残っていた洗い物を片付け、自分の部屋へと帰って行った。



いつもよりも熱いシャワーを浴び、桃佳は布団にもぐりこむ。夏だといっても、布団はひんやりとした肌触りで彼女を迎えた。その冷たさが、妙に『ひとりなんだ』という感覚を強くする。
桃佳が熱を出したり、多希にその風邪がうつってしまったりしたここ数日、確かに一緒に布団に入ることは少なかったものの、それでもこのゲームを始めてから殆どは、この狭いベットで多希とふたりだった。

「こんなに……広かったっけ、このベッド」

呟いてから、かあっと顔が熱くなるのを感じた。
まるで自分が寂しがっているようで、どうしようもなく恥ずかしくなる。
誰に見られるわけでもないのに、桃佳はその赤い顔を隠すように頭まですっぽりと布団を被り、きつく目を閉じて眠りが訪れるのをひたすらに待った。


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