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ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


71.信じられない

2010.03.25  *Edit 

その話しを聞いたとき、みなみはとても信じることができなかった。
あの駿が、もしかしたら別に女がいるかもしれないだなんて、そんなこと信じろといわれてもそう信じられることではない。駿のことを知っていれば知っているほど、絶対に信じられない話。章吾から聞いたのでなければ、みなみは絶対に信じたりはしなかっただろう。

「おはよう」
後ろから声をかけられて、みなみは思わずびくりと身体を硬くした。
「あ、も、桃佳。おはよ」
何となく声が上ずってしまった。いつも明るい笑顔のみなみの表情が曇っていて、桃佳は訝しげに首を傾げる。
「……みなみちゃん? 何かあった?」
「べ、別に何も?」
「そう?」
更に追求してきそうな桃佳の表情に、みなみは何度も頷いて見せる。今下手に口を開いてしまうと、余計なことを言ってしまいそうで、真一文字に唇を引き結んで。

それにしても……と、みなみは鞄からテキスト類を取り出す桃佳を見つめて考える。
やはり、駿のことは信じられない、と。
もしかしたら信じたくないのかもしれない。数日前、困りきって自分を訪ねてきた駿が、あれから何日も経っていないというのに浮気などするだろうか?
章吾からの情報も、いまいちはっきりとしたものではない。駿のバイト先の近くで、女性と仲良く歩いているのを見た奴がいるらしい、ということと、最近どこかぼんやりしていておかしい……という、なんとも中途半端な情報。中途半端な情報でも、前者は間違いなく駿だったらしく、腕を組んだりして只ならぬ雰囲気だったとか……

「なに?」
じっと自分を見つめるみなみを、不思議そうな目で桃佳が見る。さっきから鈍感な桃佳でも、みなみからの視線は痛いほど感じていた。
「いや、その、……えっと、実はね、そうそう!!」
何かを思い出したかのように、みなみはぽんと手を打つ。その話をきっかけに、駿とのことを聞く口実にできればいいと思って。
「実は私ね、章吾とよりを戻したんだ!!」
「へ?」
みなみの言葉に、桃佳は素っ頓狂な声を上げる。ただの友達だと思っていた二人が「よりを戻した」と言われても、いまいち意味が分からない。
「あ、だから、章吾と付き合ってるの。この前から」
「ええええ!? 付き合ってるって、章吾君と? ……て言うより、よりを戻したって、何!?」
「あ、そうか。桃佳には言ってなかったっけ」みなみは照れたように鼻の頭を掻いた。「実は、高校のときにも付き合ってたんだ、私と章吾」
「へえ」
桃佳の瞳が、好奇心できらきらと輝いている。
「別れたふたりがどうしてよりを戻したの? みなみちゃん、この前新しい彼氏ができたって、そう言ってなかったっけ?」
話が脱線してしまったことに、みなみは少しだけ苦笑いを浮かべる。それでも、少しくらいなら自分の話もいいじゃないかと。桃佳の具合が悪くて、章吾とのことを話すのを我慢していたのだから。
「そうなんだけどね……なんだか色々とあって、もう一度やり直してみようって事になって」
「……色々?」
何の気なしに口にした桃佳の言葉に、みなみはほんのりと赤くなる。その顔で、『色々』については今度じっくりと聞いてみようと桃佳は思う。きっと、たくさんの人がいるところでは言いにくい話に違いない。
「でも、みなみちゃんと章吾君付き合ってたなんて初耳だなあ?」
「うん……そうだね。そのことは、私自身忘れようとしてたから。それに、友達として上手く付き合ってたからね」
「ふうん。そのふたりがどうしてよりを戻すことになったの?」
みなみは再び赤くなる。そんなふうに頬を赤らめるみなみは初めてで、桃佳は何となく意外に思った。桃佳にとって彼女は、いつだってはつらつとしていて、彼氏のことを話すときでも今のように頬を染める様なことはなかったから。
「ずっとね……別れてからもどこかずっと章吾の事は引っかかってたの。それは章吾も同じだったみたいで……自分では否定していたんだけど、章吾の事忘れられなかったんだろうね。きっと、本当に好きな人のことは、忘れられないんだと思う」
照れたような、それでいて真剣なみなみの言葉に、桃佳の心臓はなぜかちくりと痛んだ。それを誤魔化すように、わざとおどけたような声を出す。
「そんな二人がどうして別れちゃったの?」
「ああ、身体の相性が最悪だったのよ」
「ええええ!?」
さっきまで照れたような表情を見せていたみなみが、可笑しそうに豪快に笑った。
「身体の相性って大事よね~。桃佳もそこのところ気をつけたほうがいいよ」
そんなことを言って再び声をあげて笑ってから、はっとしたようにみなみは口元を押さえる。
すっかり自分の話に夢中になってしまって、肝心なことを忘れてしまいそうになっていた。
「うん? どうかした?」
急に口元を押さえて押し黙ってしまったみなみに、桃佳は首を傾げる。できればふたりの話をもっと聞きたいとそう思っていたのに、そのあとに出るみなみの言葉を桃佳には到底想像することもできなかった。
「その、桃佳。最近駿君とはどう?」
突然みなみの口から駿の名前が出て、桃佳の心臓は飛び上がった。
「ど、どうって?」
「いや、その……ふたりはうまくいってるのかな、と思って」
変に言葉を濁すみなみに、更に桃佳は動揺する。駿といろいろあったことはみなみにも話してはいなかったから。それに、駿と仲直りした今、あの日のことを言うつもりも桃佳にはない。けれどみなみは何か知っているのかもしれない。
そう思うと、嫌な汗が掌に滲んでくるようだ。
「ちゃんと、会ってるよ。駿ちゃんがバイトに行くまでの時間。何も変わらないよ」
「そっ……か」
桃佳はみなみを、みなみは桃佳を。お互いが探るように見つめる。

みなみはさっきから同じような思いを心の中でぐるぐると巡らせていた。
「話すべき」か「話さないべきか」。
桃佳が何も変わらないと言うのであれば、それでもいいとも思う。けれど、不穏な情報を知っているのにそれを隠すのもどうかとも思う。
自分ならば、間違いなく知りたい情報だろう。隠されることは、不本意に違いない。けれど、自分がそう思うからといって、桃佳も同じように思うとは限らない。
ずっと頭の中で巡る思いに、みなみは答えを出せない。
けれど、とふと思う。
『もしも本当はなにかあったとして、桃佳が何も知らずにいたら、結局はあの時知っていれば……と思うのでは?』と。

さっきまでの探るようなみなみの視線が、急に力強い、いつもの光を取り戻す。
「みなみちゃん……?」
桃佳は何か嫌な予感がして、眉を寄せた。




「清水、日曜日なんだけどさ、ふたりで久しぶりに出かけないか? ……清水?」
「え? あ、えっと、何?」
「聞いてなかったの?」
駿は少しだけ困ったような表情を浮かべながらも、変わらない優しい笑顔を桃佳に向ける。
「だから、日曜日。ふたりで映画でも見に行かない? 話題の映画公開になったから。……何か予定でも入ってる?」
「ううん。大丈夫」
「そっか。よかったー。清水と出かけるのは久しぶりだね」
目の前の優しい笑顔を桃佳は複雑な思いで見つめた。

みなみから告げられた言葉。それは考えもしないものだった。
『駿君が女の人と歩いてたのを見たって人がいるんだけど……きっと何かの間違いだよね?』
心配するようなみなみの表情が、頭から離れない。みなみ自身、散々悩んだ挙句に桃佳にそのことを告げたのだろうということが手に取るようにわかった。何も考えずに面白おかしくそんな話題を出す人間ではないことを、桃佳はよく分かっていたから。
普通に解釈すれば、それは駿が浮気をしているかもしれないということになるのだろう。

「ん? 清水、どうかした? もしかしてまだ風邪が完全に治ってないの?」
「え? ううん。なんでもないよ。大丈夫」
「そっか。よかった」
心配そうに桃佳の顔を覗き込んでいた駿は、彼女の返事にほっとしたような表情を見せる。桃佳のことを心配して見守ってくれている、いつもと変わらない表情で。
そんな駿が、浮気をしているだなんて、やはり桃佳には信じられない。
「そうだ」
急にそう言うと、駿は思い出したようにジーンズのポケットを探った。『ちりん』。聞き覚えのある鈴の音と主に、桃佳の目の前にそれは差し出されて揺れている。桃佳が渡したあのストラップが。
「実はさ、これ、紐の部分が切れちゃって……どうにかして直そうとは思ったんだけど、俺、不器用だから無理そうなんだ。だから失くさないように、財布にでもしまって持ち歩くね」
そう言うと、駿は財布の中にストラップをしまって桃佳に微笑みかけた。
「そろそろ時間だね、出ようか」


ふたり、駅までの道を手を繋いで歩いた。
いつもと同じように、背の低い桃佳を庇うように駿が少し前を歩く。その背中を駅に着くまで複雑な思いで桃佳は見つめた。
「じゃ、俺は行くね」
「うん。バイト頑張ってね」
「ああ。メールするよ」
「うん」
軽く手を上げて改札に消えていく駿の姿を、桃佳は目で追った。
いつもと変わらない駿。
もしかしたら、いつもよりも優しい駿。

ただ、昨日と同じように、最後まで振り返らずにその背中は人ごみに消えていった。
そんな背中が、桃佳を急に不安にさせた。

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