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ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


74.月明かりが見ている

2010.03.26  *Edit 

静かな寝息が聞こえる。
深くて、安らかな寝息が。
ついこの前まで多希をとても穏やかな気持ちにしてくれていた、桃佳の寝息。それなのに、今の多希には何も感じない。

桃佳の部屋のカーテンは遮光加工されていなく、カーテンを閉めていても明るい月明かりが部屋の中をほんのりと照らしている。
ベットの上で起き上がって、多希はそっとカーテンを開けた。空には満月。満月の放つ光が部屋の中に差し込んで、桃佳の眠る横顔をぼんやりと映し出した。
月の光に照らされた寝顔は、不思議に輝いているようだ。

「よく寝てるな」
そう呟いて、多希は静かに眠っている頬にそっと触れようと手を伸ばす。
ひんやりとした感触が指先に触れると、桃佳は「うん……」と小さな声を出して横を向き、触れられてた頬をこすっている。
その様子がおかしくて、多希はほんの少しだけ微笑んだ。
それから悔しそうに口元を歪める。
何の警戒心もなく自分の横で眠る桃佳を見ていると、多希の中に今すぐにでもめちゃめちゃにしてやりたいという、ひどく乱暴な思いが芽生えてくる。今ならば、すぐにでもそうすることができる距離。
駿のことを傷つけてやろうと思えば、今この瞬間に自分の中の乱暴な欲望に従って、眠る桃佳を襲ってしまえばそれですむことだろう。
ゲームを始めてから一緒にいて、桃佳がもしも次に自分とそういう関係になってしまったのなら、もう駿とは一緒にはいられないだろうことは簡単に想像できた。それならば、今すぐにでもそうして二人を別れさせてやればいい。
もしも桃佳が本当のことを言えなくても、駿には多希から彼女と関係をもったことを伝えてやれば、駿は最も大切にしている彼女と、信頼している兄を同時に失うことになる。
そうすれば、駿を傷つけるという目的を果たすことができるのだ。
ひどく簡単なこと。
手をのばして、眠る桃佳の両手を拘束して、自分の欲望のままに彼女を凌辱すればいいだけのことなのだから。

……けれど、頭ではそう分かっていても、多希にはそうすることができない。
いくら頭の中で乱暴な想像を巡らせてみたところで、どうしても頭の中の想像通りの行動をとることができないのだった。
「手は出さない」
そう自分で言ってしまったからだろうか?
それもよくはわからないものの、まるで呪縛にでもかけられたように、どうしても桃佳の体に触れることができなかった。手を伸ばせば、自分の思うままに自分のものにすることができるというのに。
初めて会ったあの夜のように、奪うこともできるのに。

「奪う……?」
ため息交じりに呟いた声は、空気に溶けてしまうほど儚い。
そう、体を奪うことは簡単だ。けれど、そんな事をしても心を奪うことはできない。それどころか、乱暴に体を奪うような事をしたならば、桃佳はかえって多希に対して心を閉ざしてしまうだろう。
それでは足りないのだ。体だけでは……
……そんなこと、今まで関係をもった女に対して考えたこともなかった。
いつだって、相手の心が欲しいなど思ったこともない。ただ、体だけ繋がればそれでいいと思ってきた。

女なんて信用していなかったから。
女の体だけあればよかったから。
女の心なんて必要なかったから……

けれど桃佳に対しては、認めたくないものの、多希はその「全て」が欲しいと思ってしまった。
もしかしたら、体よりも心を。
今となっては、そんな風に思った自分のことをたまらなく馬鹿だと思う。初めから叶うはずのなかった願いだったのだから。
駿を傷つけるために始めたゲーム。その中で、駿の彼女である桃佳が、自分のものになるはずなど初めからなかったのだ。桃佳には恐ろしい思いや、悲しい思いをさせてきたのだから。
けれど、以前の多希はそこまで考えることができなかった。
本気で自分のものにできると思っていた。
今まで相手をした女たちがそうだったように、喜んで自分から体を差し出すだろうと思っていた。
「手を出さない」というルールは、いつか桃佳が自分を欲しがった時に、かえって彼女を燃え上がらせるのにいいスパイスになるだろうとさえ思っていたのに、結局はそのルールに一番苦しんでいるのは、紛れもなく多希。

「……」
片手で顔を覆って、多希は肩を揺らした。
声にならない笑い声が、夜の空気を震わせる。
誰かを欲しい。自分がそんなことを考えてしまうこと自体が間違っていた……
そんな思いが多希のことを包み込み、酷く卑屈な気持ちになってくる。
夜の闇に紛れこんでしまったかのような寂しさと、その闇に浸食されていくような虚無感。
多希は夜の闇に浮かぶ明るい月に、無意識に手を伸ばした。手の届くことのない月に手を伸ばすのは、まるで桃佳を想うことと似ている。そんなことを思うと、やはり無意識に顔がゆがんでしまう。
けれどそんな自分をどうすることもできずに、多希は全ての思いを閉じた。

何も感じなく、何も想わなくていいように……

浮かんだ涙にさえ、気がつかずに……





「何見てるの?」
その声にはっとして、駿はカーテンの隙間から見ていた明るい月から、声のした方に視線を動かした。
隣では裸のままの美鳥が、不思議そうに駿のことを見上げている。
「ああ、月が奇麗だな……って思って」
「そうだね。今日はやけに月が明るいね」
美鳥は笑いながら答えると、月がよく見えるようにカーテンを開けた。とたんにほんのりと明るい暗い部屋に差し込んで、裸の二人を包んだ。
何となく駿はその光に眉をひそめて目を細める。
「……ねえ駿、何考えてるの?」
美鳥は唇の両端をきゅっとあげ、どこか含みのある表情で月明かりに照らされた駿の顔を見ている。
「別に」
「ふうん」
「ただ、奇麗だな、と思って」
「ま、そうだね」
駿は眉をひそめたままで、ただじっと月を見つめ続けた。
ただ静かに輝いている月に、まるで自分のすべてを見透かされるような気がして、心が痛んだ気がした。ほんの一瞬だけ。
「美鳥」
「ん? ぅん、んんっ」
見上げた美鳥の顎を持ち上げて、深く口づける。舌を絡ませ、吸い、貪る。たったそれだけの行為で、駿は自分の体が熱くなってくるのがわかった。どうしようもない熱。それをすべて出しつくしてしまいたいと。
「……美鳥」
名前を呼んで、その魅力的な体を抱き寄せる。
けれど、心の中で呼びかける名前は「桃佳」。

こんなことは間違っているだろ!

自分の中でそんな声が聞こえたような気がした。
けれど駿はその声に気がつかない振りをして、美鳥の首筋に唇を落とし、舌先でなぞっていく。
「ァ、ンんっ」
耳元で切なげに聞こえるのは確かに美鳥の声。
けれど駿は何度も心の中で呼びかける。
「桃佳」
自分にとって、一番大事な人の名前を。
裏切ってしまった、裏切ってはならなかった人の名前を……



月明かりは人の心を狂わせる……
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