りんどう庵

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit TB(-) | CO(-) 

りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


76.ぬくもりをくれる腕

2010.03.27  *Edit 

「清水の部屋、なんか久しぶりだなあ……」

そう言いながら駿は、目を細めて部屋の中を見渡した。
見慣れた、変わらない桃佳の部屋に来られて単純に嬉しいと思う一方で、頭の片隅にピンク色にあふれた部屋を思い出す。美鳥の目のちかちかするような部屋を。

「そうだね、駿ちゃんがここに来るのって久しぶりだね」
桃佳はそう言いながら、途中で買ってきたペットボトルのコーラをグラスに注いで、立ったまま部屋の中を見つめている駿に手渡した。
「ああ、ありがとう」
それを受け取り、駿は座った。それにならって桃佳も座る。
……以前よりも、ほんの少し微妙に距離をあけて。
忘れようと思っても、まぶたの裏に、あの日無理矢理に自分を抱いた駿の姿が浮かび上がって離れない。
考えないようにと思えば思うほど、その姿は鮮明になるのだった。

桃佳は両手で抱え込んだグラスを見つめた。
底の方からぷつぷつと気泡が浮かんでは表面で弾ける。
消えては浮かんでくるその小さな気泡を見ていると、今の自分とどこか重なってしまって、桃佳は一気にコーラを飲み干した。炭酸がいっぺんにに喉を滑り落ちる刺激に、顔をしかめて小さく咳込んだ。
「大丈夫?」
咳き込んだ桃佳の背中をさすろうと駿の伸ばした手が、その華奢な背中に触れた瞬間、桃佳の体全体がビクン!と震える。
自分の体が思ってもいないほど大きく震えたことが、桃佳にも分かった。勿論、駿も気付かないはずがない。
恐る恐る顔をあげた桃佳が見たのは、驚いたように自分を見つめる駿の顔。
そして駿が見たのは、凍りついた表情で固まってしまった桃佳の顔……

瞬間、ふたりの間の空気が痛いほど張りつめた。
桃佳はどうしていいのか分からずに、今にも涙が零れてしまいそうで視線を床に這わせる。何をどう言っていいのかわからない。何か言ったところで、変な言い訳にしかならないような気がして、ぐちゃぐちゃに絡まった思考は、更に桃佳を追い詰めるだけ。
きっと触られただけでこんなにびくついている自分を見て、駿はひどく傷ついたに違いない。
そう思うと、もう桃佳には駿の顔を見る勇気はなく、顔を上げることもできない。
体を固くして、ぎゅっときつく目を瞑った時、ふわりと桃佳の頭に暖かな掌が載せられる。
驚いて顔をあげると、目の前に少しだけ困ったような、けれど優しい駿の表情。

「……清水、怖がらせちゃってごめんね。俺、この前酷いことしちゃったから、清水がまだ俺に対して『怖い』って感情を持っていても仕方ないと思ってる」
「駿……ちゃん」
「だから俺、清水の気持ちがちゃんと落ち着くまで何もしないから。約束するよ」
安心させるように、駿がにこりと微笑む。
その表情があまりにも柔らかで、それまで桃佳の中にこびり付いていた怯えは、急速に小さくなっていった。
それと同時に、結局は駿にあんなことをさせてしまったのも自分のせいなんだという感情が彼女を包み込み、大きな瞳にジワリと涙が浮かんでくる。
「ご……めんなさい。駿、ちゃん。ごめんなさい」
溢れた涙はすぐに瞳に一杯になり、ぽろりと零れて頬を伝う。
「ごめんね、駿ちゃん……」
堪えていたものがやっと出口を見つけたように、桃佳の瞳からあふれた涙は、次から次へと盛り上がっては零れ、彼女は両手で顔を覆った。
「清水……」
桃佳の震える肩に、駿がそっと手を伸ばす。
さっきのように、駿が触れてもその体は怖がるように硬くなることはない。
それを確かめて、駿は桃佳の体に手をまわし、そっと包み込むように抱きしめた。壊れ物でも扱うかのように、そっと……
「バカだな、謝るのは俺の方だよ。本当に酷いことをしたって思ってる……もう、あんなこと絶対にしないから。ごめん」
暖かい駿の腕に包まれ、同じように自分を包み込む優しい声に耳を傾ける。
優しすぎて、痛いほどだ。
こんなにも優しい人に自分が思われていることはとても幸せなのに、桃佳にはそれをただ幸せだと思うことを許されない。
……多希がきっと許さない。
そして、裏切り続けてしまった自分の心も……
けれど、今だけはこの暖かな優しい腕に、自分の全てを預けてしまいたいと思った。
全て、溶かされたいと……
心の底からそう思ったはずなのに、桃佳の心の中には小さなしこりがあって、それが彼女には聞こえない声で激しく何かを叫んでいるような気がした。

「もう、泣かないで」
唇が耳を掠めそうなほどそばで囁かれて、くすぐったくて桃佳は身を捩った。
「やだ、くすぐったいよ」
涙で頬を濡らしたまま微笑むと、駿も目を細めて見つめ返してくる。
……キスされる
そう思っても、桃佳にはさっきのような怯える気持ちは少しも湧いてこない。ゆっくりと長い睫毛を伏せ、顔を上げる。
けれど駿の唇が落とされたのは、彼女の唇ではなくておでこだった。
てっきり唇にキスをされると思っていた桃佳は、キョトンとして駿を見つめた。
そんな表情の桃佳に、駿はさっき自分が唇を落とした額をちょんとつつく。
「だから、何もしないってば」
「……駿ちゃん」
「え? ……うわっ」
急に桃佳がその体に抱きついたので、駿はバランスを崩して、体の上に桃佳を抱くような恰好で仰向けに転がった。
「ちょ、清水、大丈夫?」
自分の胸に顔を埋めるようにしてぴったりとくっついている桃佳に、頭だけ上げて問いかける。
ぴたりとくっついている桃佳の顔は、駿からは窺い知ることも出来ない。
「……っく」
小さくしゃくりあげる桃佳の声。
その背中がさっきと同じように、泣き声を堪えて震えているのに気がついて、駿は少しだけ驚きながらもその背中をさすった。
何も言わずに、ただただ桃佳が落ち着くまで黙ってその背中をさすり続ける。
暫くするとすすり泣きは小さくなり、完全に泣きやんだらしい桃佳は、駿の胸から少しだけ顔をあげて赤い目をそっと向けた。その視線はすぐに駿の穏やかな視線にぶつかる。

「ごめんね……泣いちゃって」

消え入りそうな声で呟く桃佳を、胸に乗せたままで駿は強くその体を抱きしめる。
「ごめんって言わなきゃいけないのは俺の方だから。泣かせちゃったのは俺でしょ?」
その言葉に桃佳は大きく首を振る。泣いてしまったのは駿のせいではない。自分のせい。
駿の優しさを、嬉しいと思いながらも苦しいと感じてしまう、自分のせい。

「こうしていると気持ちいいね」
駿がくすくすと笑うと、彼にのしかかった姿勢の桃佳の体も、そのくすくすという笑い声と一緒に揺らされる。
「……あったかいね」
桃佳は彼の胸に顎を置くようにして顔をあげると、目を細めてにっこりと微笑む。
温かい気持ちが、二人の間に満ちていくようだった。
どちらともなく引き寄せられるように唇を重ねあう。
何度も……何度も。
離れてしまっていた時間と、離れてしまっていた気持ちを埋めるように、深く濃密に……








多希はいつもならば職場に籠っている時間に帰宅ということもあり、何となく物珍しげに周りの景色を見渡しながら歩いた。
今日は、地域の健康診断に駆り出され、移動健康診断車両に乗り、あちらこちらでレントゲン撮影をしていたのだった。そのため、朝早く駆り出されたものの、こうして早く帰宅することが許されたのだった。

まだ眩しい夏の日差しに、目の上に手を翳すようにして空を見上げる。空にはぽっかりと小さな雲が浮かんでいた。
どこにも寄る所もないので真っ直ぐに部屋へと向かう。階段を登ったところで聞き覚えのある声が聞こえてきて足をとめた。

「じゃあ、清水。今日はどうもお邪魔しました」
「うん。バイトがんばってね」

桃佳の声……そして、もうひとつは駿の声。

それが分かった瞬間、自分でも何をしているんだと思いながらも、多希は階段口に身を隠してふたりのことを伺った。
桃佳は部屋のドアを半分開いて、ドアの外にいる駿のことを見送っているようだ。

「また……来るね」
「うん。また時間があったら来てね」
何となく甘い空気のふたりに、多希は苦いものがこみ上げてきて、顔を歪める。
そんな空気でさえ平静さを保てなかったというのに、多希は見てしまったのだ。

「清水」
「駿ちゃん……」

お互いの体に腕をまわし、唇を重ねあっているふたりを……
唇を離した後、少しだけ照れくさそうに、それでいて優しく微笑む桃佳の表情を。




無意識のうちに、多希はその場から逃げるように立ち去っていた。
ただ、微笑み合うふたりをそれ以上は見たくなくて、足早に外に出て行き先も考えずに歩く。
熱い空気が一気に凍りついたように冷えた体に入り込んで、咳き込んでしまっても足を止めない。

目の奥で、何度もさっきの場面が蘇り、多希はやっと見つけた木陰に座り込むと、きつく握った拳を額に当てて、何も見えないようにぎゅっと目を瞑った。



スポンサーサイト



*Edit TB(0) | CO(2)

~ Comment ~

こんにちは(*´ェ`*) 

先生、こんちわ~♪♪
ブログ開設おめでとうございます。
最新話読みました!おお、駿、駿、駿っ!!
私のことを思って書いてくださっただなんて!
ぴーちファンのみなさまに申し訳ないです…
プラトニックで帰ってしまいましたが、やっぱり駿ちゃん好きだーーーー!!
あ、ここに感想書いてしまってよかったのでしょうか?拍手の方に書いた方がよかったのかな?
もしご迷惑なら消してくださいね。

アリエルより
  • #1 アリエル 
  • URL 
  • 2010.03/27 16:05分 

Re: こんにちは(*´ェ`*) 

アリエルさん、こっちにまでありがとうございますぅ~!!
もう、どこでもいいですよ!!
こっちでも、拍手の方でも、来ていただけるならどこでも歓迎しますとも(^-^)
迷惑なんかじゃないので、ここにちゃんと残しておきますよ。
だって嬉しいもん♪
私の知っている限り、駿を応援してくれる人はいいても、『駿ファン』だと言ってくれているのはアリエルさんだけ……^^;
これからもどうぞよろしくね~!!
  • #2 沢上澪羽 
  • URL 
  • 2010.03/28 09:25分 
 管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。