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ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


77.ぬくもりを消し去る腕

2010.03.31  *Edit 

「バカだな……」
前髪を掻き上げながら小さく呟いて、多希は自嘲的に笑った。

駿と桃佳が付き合っていることは、勿論よく分かっている。
付き合っているふたりが抱き合っていても、キスをしていてもおかしくはない。キス以上のことだってしているのだろうから。
そのことに自分が何かを言える立場ではないことくらい、承知しているつもりだ。それでも、あんな場面を目の前で見てしまった多希は、冷静でいられなかった。
頭で理解していることと、理解したつもりでいたことを目の前で見るのとでは、全く受けるダメージが違う。
思った以上のダメージに、多希は自分でもそんな自分をどうしていいのか分からないでいたのだった。

もう自分の気持ちのすべてを閉じて、ゲームだと割り切ろうと思った。
それができると、女のすべてが欲しいと思う自分のことなど捨ててしまえると、本気でそう思っていた。
それなのに、駿と桃佳がキスをしているところを目の前で見てしまって、もう痛むことはないと思っていた胸がひどく痛む。
その痛みさえ馬鹿らしいと思う一方で、その痛みこそが真実だと思う自分。
そんなふうに揺れてしまう自分を、もう自分ではどうすることもできない。

「バカだな……」

その呟きは、夏の風に吹かれて消えていった。




「ただいま、モモ」

どれくらい自分が照りつける日差しの中を歩いていたのかは、多希にもよくわからなかった。
ただ、頭の中がぼうっとしている。

「多希さん……どうしたんですか?」
部屋の中から多希の声を聞きつけて出てきた桃佳は、赤い顔をしてぼんやりとした様子で立っている彼の顔を見て、驚いたような声を上げた。
「何が?」
「何がって……顔、すごく赤いですよ」
「外が暑かったからね。なんでもない」
そう言いながら多希は、ふらりとした足取りで靴を脱いで部屋の中に入って来る。訝しがりながらも、桃佳もそのあとに続いた。
部屋に入った多希は、テーブルの上にあるふたつのグラスに目をとめる。
「誰か来ていたの?」
「え? ええ……」
多希の視線の先に、ふたつの空のグラスがあることに気がついて、桃佳の胸はどきりと跳ね上がる。
いつもならまだ帰宅する時間ではなかったので、片づけていなかったのだった。
「えっと、友達が……今日は早く学校が終わったんで、寄っていったんです」
「友達……ねえ」
見透かすような瞳で見つめられ、桃佳はつい目をそらしてしまう。

本当のことを言えばいい。
駿がこの部屋に来ていたと。
たくさん抱きしめられ、まだこの体には、駿のあたたかなぬくもりが残っているのだと、そう言ってしまえばいい。

そう思いながらも、桃佳はどうしても本当のことを言うことができなかった。
以前ならば、多希のことを挑発するように駿とのことも話せていたはずなのに、今の桃佳にはどうしてもそうすることができない。それがそうしてか。そんなことを考えることはできないとしても。

「……み、みなみちゃんって子で、とっても綺麗なんですよ。多希さんが見たら、絶対モノにしたいって思うくらい」
グラスを片づけながら、桃佳は妙に明るい声でそう言う。
「ふうん」
勿論多希はそれが嘘だということを知っている。
だからこそ、そんな妙に明るい桃佳の声は、多希に変な想像を抱かせた。
ふたりがこの部屋でさっきまで何をしていたのか……自分には知られたくないようなことを、ふたりだけの秘め事を。
そんなことを考えると、頭ががんがんと痛んで、多希は眉間のあたりを指で強く押さえる。
「多希さん……? 頭痛いんですか?」
「少しね」
少しという割にはつらそうに寄せられた眉。桃佳は多希のそばに屈みこむと、その額に手を伸ばす。
指先がその額に触れた瞬間、多希の体はびくりと震える。
「……っ、触るな!!」
悲鳴にも近い声をあげ、多希は桃佳の手を勢いよく払った。
「ご、ごめんなさい……その、熱があるんじゃないかと思って」
払われた手を庇いながら、桃佳は多希の怯えているような瞳を見て、体の芯がすっと冷たくなるような感覚に捕らわれた。
それはまさしくさっきまで、自分が駿に向けていただろうものとよく似ている。
ほんの少し前に自分が駿に向けていた怯えたような視線。それを今、多希に向けられている。まるで逆転してしまったようだ。
けれど桃佳にはわからない。どうして多希が自分のことをそんな目で見るのか。そして同時に知った。こんな視線を向けられた駿がどんな気持ちを抱いたのか。

「いや、その、悪い。なんでもない」
多希はバツが悪そうに目をそらす。
それから一呼吸置くと、さっき自分が叩くようにして払ってしまった桃佳の手にそっと触れた。
「……ごめん。痛かったろ?」
ほんの少しだけ赤くなってしまっている手の甲に、自分の掌を重ねる。
「本当に……ごめん」
「いえ……私が急に手を伸ばしたから」
「ごめん」
そう言いながら、多希の体がぐらりと揺れた。
「多希さん!?」
あわてて桃佳はその体を支えた。支えた手のひらから伝わってくる熱さに驚く。
「ごめ……外、暑くて……」
「いったいどうしたんですか? とにかく休んでください」
ふらつく体を支えながら、多希を自分のベットに寝かせる。そしてタオルを水で冷やすと、額の上にそっと乗せた。
「もしかして、暑さにやられちゃいました?」
「……たぶん」
額に乗せられたタオルの冷たさが心地よくて、多希は目を閉じた。
「ごめん。迷惑かけて」
呟くように言った多希の言葉に、桃佳はクスッと笑った。
「今日の多希さんは謝ってばっかりですね」
「そうかな?」
「そうですよ」
にっこりと微笑む桃佳の顔を見て、多希も目を細めて少しだけ微笑む。そしておずおずといった感じで、手をのばして桃佳の頬にそっと触れた。
「……冷たいな」
「多希さんが熱いからですよ」

ふわり、と笑う顔に、多希は何かを考えるよりも先にその腕を掴んで桃佳の体を引き寄せた。

「多希さん!!」
不意を突かれて引き寄せられ、多希に上半身を預けるような格好で抱きすくめられる。その腕の中はひどく熱い。
「多希さんてば!」
あわててその体を離そうとするものの、抱きしめる力は思った以上に強く、身動きが取れない。
「冷たい」
「え?」
「モモの体、冷たいから……俺の体、冷やして?」
「な、何を言ってるんですか!?」
いつものように面白がってそんなことを言っているんだろうと思っていた桃佳の耳に、思ってもいないほど切実な声が届く。
「……頼むから……今だけでいいから……ここにいてくれ」
聞いたこともないような多希の声だった。
「頼むから……モモ」
更に強く抱きしめる多希の腕が、震えているような気がする。

突き放すこともできたはず。
この前のように、もう嫌だと言って突き放すことも。
けれどあまりにも切実な声に、桃佳は体の力を抜いてしまった。

「今日の多希さんは変ですね……」
力を抜いて自分に体を預ける桃佳の体を、これ以上ないくらいに引き寄せ、多希は柔らかな髪に顔を埋めた。
「そうかな?」
「そうですよ」
どちらともなくくすりと笑う。
それからただじっと多希は桃佳を抱きしめ、桃佳は多希に体を預けていた。


多希の腕は、まるで桃佳がどこにも行かないように縛り付けるかのように強く、そして駿の残していったぬくもりさえも消してしまうほどに熱かった。



桃佳はその熱さが心地よく、そして怖かった。

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