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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


78.土曜日はふたりで

2010.04.03  *Edit 

「いらっしゃいませー」

妙に明るいだけの事務的な声を聞き流しながら、多希はいつも仕事帰りに立ち寄るコンビニに入ると、まっすぐにアルコールのコーナーへと歩いて行った。
自分の分のビールと、それから桃佳でも飲めそうな、甘いカクテル。アルコールを選ぶ顔は、顎のところに手を置いたりして変に真剣だ。
昨日はあれから数分間桃佳を抱きしめた後、夕食も摂らず、しかも桃佳のベットまで占領して明け方まで眠りこんでしまったのだった。床に来客用の布団を敷いて眠っている桃佳を見つけた時は、全く別の意味で頭が痛くなった。
彼女が目を覚ます前に部屋を出て、そのまま仕事に行ってしまったので、何となく手ぶらでは行きづらくて、こうしてアルコールを持参し桃佳の部屋に行こうと思ったのだった。
ビールの6缶パックをカゴに入れ、新発売のきれいな赤い缶のカクテルを取り出そうとしたとき、後ろから声をかけられた。

「多希君じゃないか?」
親しげに呼ばれ、振り返った多希はその人物の顔を見て珍しく人懐こい笑顔になる。
「店長、お久しぶりです」
多希から『店長』と呼ばれた人間も、にっこりと彼に笑顔を返す。
彼は多希が高校生の頃にバイトをしていたレンタル店の店長で平野という。当時、多希が心を許した数少ない大人のひとり。とても良くしてもらった記憶がある。
「どうしたんですか? 店長のお宅は、こっちじゃなかったと思いましたけど」
「ああ、ちょっと病院に寄っててね」
「病院!? どこか具合でも悪いんですか?」
眉をよせて明らかに心配そうになった多希の顔を見て、彼は胸の前で大きく手を振ってみせる。
「いや、俺じゃないんだ。知り合いが入院していて、それでお見舞いにね」
「そうなんですか……良かった」
ほっとした表情を見せる多希に、平野は目を細める。
「……なんだか多希君は随分と表情が柔らかくなったね。誰かいい人でもできたのかい?」
多希が高校生の頃、いつもどこか自分を抑えつけているような、表情の乏しい彼のことを、平野はいつも心配していてくれたのだった。
なにかある度に食事に連れて行ってくれたり、さりげない優しさを常に向けていてくれた。
そんな自分をよく見ていてくれた人物に『表情が柔らかくなった』だの『いい人ができたのか』などと聞かれ、つい動揺してしまう。脳裏に桃佳の顔が浮かんで、多希は浮かんだ顔を必死にかき消した。
「そんなこと、ないですよ」
「そうかな?」
「そうですよ。……ああ、それより、弟がお世話になっています」
「ああ、駿君ね。よく働いてくれているよ」
駿に紹介したバイト先は、平野の店だ。多希からの紹介ということもあって、平野はすぐにアルバイトとして使ってくれたのだった。
「ちゃんとやってますか? よかった」
「ちゃんとやってくれてるも何も、急にバイトの子が辞めて困っていたんだけどね、駿君が『土曜日もバイトします』って言ってくれて本当に助かっているよ」
平野は嬉しそうにそう言うものの、多希は眉をひそめる。
「土曜日も?」
「ああ、本当に助かっているよ」
それは何か多希の中で引っかかった。
あれ程桃佳との週末を大事にしていた駿が、人手が足りないからと言って、自分からバイトを入れてくれなどと言うだろうか……
「いや、引き止めて悪かったね。今度ゆっくり飲みにでも行かないか?」
「そうですね、ぜひ」
平野も急いでいたらしく、そう言うとにこやかに笑いかけながらコンビニを出て行った。
多希も買い物を済ませてコンビニを出る。見上げるときれいな夕焼けが広がっている。

なぜ駿が自分からバイトの回数を増やしたのかはわからない。
けれど、これで桃佳が土曜日さえも自分のものになるかもしれないと、多希は口元に怪しい笑みを浮かべた。







「昨日は大丈夫でしたか?」
「ああ、うん」

桃佳に昨日のことを問われて、多希はバツが悪そうな顔で苦笑いをした。

「それにしても気をつけないと、熱中症にでもなったら大変でしたよ」
桃佳は夕食準備のためにキッチンに向かい、多希には背中を向けたままでクスクスと笑った。
多希はひとつため息をついて、笑っている桃佳の背中を見つめる。

昨日、暑さには酷く弱いと分かっていながら、夏の陽の照りつける道をただただ歩いていた。そのせいで、熱中症寸前の状態になってしまったらしい。
すっかり桃佳に看病してもらって良くはなったものの、随分と弱気な発言を繰り返してしまったような気がしてならなかった。そのことを思うと、どうしても勝手にため息が漏れてしまう。
けれど、弱気なことを口走ってしまったものの、そのお陰で強い言葉を桃佳にぶつけずに済んだ事も事実。
体が弱っていなければ、自分がどんな言葉を桃佳にぶつけ、更にどんな手段に出ていたのかを考えることは容易だった。
きっと感情のままに言葉をぶつけ、嫌がる桃佳を押し倒し、無理やりに全てを奪っていたかもしれない。
それはもしかしたら、ゲームさえも破綻させてしまうような結果を生んでいたことも考えられる。
だからこそ多希は、昨日具合が悪くなったのはかえって幸運だったのかもしれないと思う。おかげでこうして冷静になれた自分がいるのだから。

「もうすっかり大丈夫なんですか?」
桃佳が出来上がった夕食を運んでくる。今日の夕食は冷やしラーメンのようだ。
体はもう問題なかったものの、それでも昨日あれだけ体内に熱を吸収してしまった多希には、この上なくありがたいメニューだった。
「うん。病院は冷房も効いているからね、体はもう楽になった。……いただきます」
「どうぞ」
「おししい」
「そうですか? よかった」
褒められて嬉しそうに微笑み、桃佳も手を合わせてから冷やしラーメンを口に運んだ。


食事も終わり洗い物を済ませると、多希は自分の部屋へと戻り、コンビニの袋をぶら下げて戻ってきた。
「これ、一緒に飲まないか?」
「え?」
多希は袋からカクテルの缶を取り出してテーブルの上に並べる。自分の部屋で冷やしていたのか、ひんやりと冷えている。その他にもチーズのセットやら、漬けものなんかも並べられた。
「その、昨日はベットまで占領してしまったから……」
申し訳なさそうに、それでいてどこかぶっきらぼうに呟く多希を見て、桃佳はつい「ぷっ」と吹き出してしまう。
「な、なんだよ」
「いえ……ありがとうございます。いただきます。チーズ切ってきますね」
昨日はあれほど素直に謝っていたというのに、今日は素直になれない多希がおかしくて、桃佳は笑いがこみあげてきた。それでもそれが多希らしいと、どこかでほっとする。
この前感じた距離は、今は感じられない。
それが、嬉しくて。

「それにしても、多希さんと漬物って、なんだかとってもミスマッチな気がします」
そう言いながら桃佳は多希の買ってきた胡瓜の漬物を口に運んだ。
明日は何の予定もないという安心感と、自分の家という気軽さで、既に二缶目がなくなろうとしていた。
「そんなことないだろ。俺はこういうの大好きだけど」
「でもほら、多希さんなら、漬物ってよりもピクルスって感じじゃないですか」
「なんだよそれ、どっちも似たようなもんだろ」
アルコールが回ってテンションの上がっている桃佳は、少しだけ赤い顔で「ふふ」と笑う。その顔があまりにも可愛らしく、あまりにも警戒心がなくて、多希は湧き上がってくるあたたかさと苛つきとを同時に感じた。
そんな相反する感情が同時に湧き上がってくる自分の心を、もうどうにもコントロールしようがない。
話題を変えるように、さっき平野店長から聞いた話を持ちかけた。
「そう言えば、駿は土曜日もバイトを入れたらしいね」
多希の言葉に、それまでいつもよりも口数の多かった桃佳がぴたりと黙った。
赤かった顔も、心なしか白くなっている。
「どうしてそんなこと知ってるんですか?」
「どうしてって……駿に紹介したバイト先は、俺が昔バイトしていたところだから。今日、たまたま店長にあって聞いたんだけど」
「そう、ですか」
そう言ってまたしても押し黙る。
アルコールのまわった桃佳の脳裏に、あの噂が蘇る。そして昨日大学で見た、同じバイト仲間だという駿と親しげな女性の顔も。
優しい駿を信じようと、信じられると思っていた。本当に、心から。
けれど、アルコールはそんな桃佳の決心さえ簡単に揺らがせてしまう力があった。
あの日抱きしめられたあたたかな腕のぬくもりさえ、うまく思い出せない。

「どうした?」
押し黙ってしまった桃佳の顔を、手をのばして柔らかな髪の毛をよけながら多希がのぞきこむ。
彼女ははっとしたように顔をあげ、髪に触れる多希の手から逃れるように、あわてて自分で顔にかかった髪の毛を耳にかけた。
「な、なんでもないですよ」
精一杯の笑顔を作ったつもりだったものの、その顔は微妙に歪んでしまう。
「ふうん」
その歪みに気が付きながらも、多希には何があったのかは聞けない。駿との間に何かがあったとしても、そんなことを桃佳が自分の口から言うとは考えられなかった。
それに、昨日キスを交わしていた二人は、とても幸せそうで……

湧きあがってくる苦い感情を振り払うかのように、多希は明るい声を出した。
「モモ、じゃ明日は何も予定がないわけだよね」
「え、ええ。まあ」
「じゃあ、どこかでかけようか」
にっこりと突然の提案を吹っ掛ける多希を、桃佳は目を丸くして見る。
「どこかって……!?」
「どこでもいいよ。考えてみたら、モモと昼間に出かけたことないしさ、どこか行こう?」
「い、嫌ですよ!!」
速攻で断られ、多希は不満げに目を細める。
「どうして」
「だって、多希さんと歩いたりしたら、目立ってしょうがないじゃないですか!! 比較されちゃう……」
「は?」
「多希さんみたいにその、かっこいい人の隣に私なんて、不釣り合いすぎて笑われちゃいます!!」
多希にはどうしても馬鹿げたことにしか思えなかったが、桃佳は至って真剣な顔でそう訴える。
「本気でそんなこと思ってるの?」
「……勿論」
口をへの字に曲げ、視線を床に這わせる桃佳の頭を、多希はその大きな掌でくしゃりと撫でる。
「バカなやつだなあ。ま、いいや、決まり。明日迎えに来るから、一緒に出かけるぞ」
「え、え? イヤですってば!!」
「決まり、決まり。はい、この話は終わり。飲んでる? 新しいの持ってこようか?」
勝手に話を終わらせると、多希は冷蔵庫から新しい缶を持ってきてにっこりと桃佳に差し出す。
桃佳は不満げに口を尖らせていたものの、これ以上この話を蒸し返すのは自分にとっていいことではないような気がして、黙って缶を受け取った。きっと多希の気まぐれだろうと。明日になれば忘れてしまうに違いないと高を括って。

桃佳はリングプルを上げて、渡された缶に口をつける。
「あ、おいしい」
「そう、よかったね」
「はい!!」
ほんのりと甘酸っぱい香りが口の中に広がって、アルコールですでに麻痺しかかった頭は、多希の提案のことなどすぐに忘れてしまうのだった。
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~ Comment ~

こんにちは♪ 

あわわっ!次回は何だか波乱の予感でしょうか???もう毎回楽しみでなりませんっ!!クライマックスに近づいているのかなと思うとちょっと寂しい気もします。駿ちゃんにバレちゃうのかな~傷心したら私のところに来て、駿っ!!

  • #3 アリエル 
  • URL 
  • 2010.04/03 16:52分 

Re: こんにちは♪ 

アリエルさん、こんにちは~♪
すいません、波乱なしでした(笑)
クライマックス、確かにもうそろそろなはず……
って、無責任発言ですいません(汗)
なんだか最近キャラに振り回されっぱなしで、話の展開がかなりスローペースなので、まだまだお付き合いお願いします。
ご期待?の波乱はちゃんと用意してありますよ……とだけ言っておきましょう!!
コメントありがとうございました。
毎回毎回、本当に嬉しいですよ~(●^o^●)
  • #4 沢上澪羽 
  • URL 
  • 2010.04/05 14:36分 
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