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ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


79.太陽の下で

2010.04.05  *Edit 

窓の外を流れていく景色を、桃佳は浮かない顔で見つめていた。
外は抜けるような晴天、それなのに、桃佳の表情は曇り空もいいところだ。

プイと自分から顔をそらすように窓の外を見ている桃佳をちらりと見て、多希は思わず苦笑いをこぼした。

「モモ、いい加減もう少し楽しそうにしたら?」
「……だって、多希さん、強引すぎです」

今朝のことだ。
すっかり昨日の夜のことなど忘れて眠っていた桃佳は、完全に出かける用意を整えた多希に叩き起こされたのだった。
勿論、用意など少しもしていなくて、頭は寝ぐせだらけ、そしてすっぴん。とても出かけられないと反論したのだ。
しかし……
用意をしないと、そのままの状態で車に乗せると脅され、大慌てで支度を整えて半ば引きずられるようにして部屋を出たのだった。
昨日の多希の提案、それを一時の気まぐれだと思って高を括っていた自分を、桃佳は恨むしかない。
それに、多希と並んで歩くことを考えると、もうそれだけで気分は激しく滅入るのだった。
誰から見ても『綺麗』以外に表現のしようがない多希の顔。どこへ行っても彼が目立ってしまうのは目に見えている。その隣に自分……そう思うだけで、気分はひどく沈んでしまう。
耳の奥で罵倒する少女たちの声が聞こえた気がして、桃佳はぎゅっと目をつむる。それは言うまでもなく辛かった高校生の頃の記憶。
いつまでも昔の記憶になど縛られて馬鹿みたい。
そうも桃佳は思うのだけれど、それでも多希と一緒に歩く自分は、他人からどんな目で見られるだろうか、と思うことを止められない。
どうしても惨めな気持ちになってしまうのだった。

「どこ……行くんですか?」
もうかれこれ30分以上車に乗っているが、行先は聞いていない。
「ん? 海辺」
カーブを曲がると、その言葉の通り日差しをきらきらと反射させた海が視界に広がった。
「え?」
多希の言葉に、桃佳の顔はこれ以上ないというくらい強張る。この季節の海辺と言ったら、それこそ人が溢れている。思わず「嫌がらせですか?」と呟いてしまった。
「嫌がらせ? なんで? 海辺に美味しいレストランがあるっていうから、そこで昼食でもと思ったんだけど」
多希のその言葉にもやはり桃佳の顔は晴れない。そんな彼女の表情を見て、仕方がないとでも言うように多希は肩をすくめて駐車場に車を入れた。

「どうぞ」
先に車から降りた多希が、助手席のドアを開けて桃佳を促す。桃佳はちらりと上目遣いで多希を見てから、ゆっくりと車から降りた。
土曜日で天気のいい今日は、桃佳の思ったとおり、海辺にたくさんの人が溢れている。
海に来るとは考えてもいないうえに、急かされ準備をした桃佳ではあったものの、髪をひとつにまとめ、白いワンピースを着たその姿はとても海辺に映えている。
一方の多希は、白いシャツにジーンズという飾らない服装であったが、さっそく人目を引き始めていた。
数人の女性が多希の方を熱のこもった目で見つめて、何やら囁き合っているのが桃佳にも分かった。
「モモ? 行こう?」
振り返った多希が自分の方を見ている。桃佳は彼と自分が比較されて、何かを言われているのじゃないかと思うと、華奢な体をさらに縮こめた。
それでも少しだけ多希と距離をとりながらも、彼の後について歩き始める。
俯いて歩く桃佳を、多希は小さくため息をついて振り返った。
「モモ、何びくびくしてるの?」
「そんなんじゃないですけど……」
そう言って立ち止まってしまった彼女のそばに、多希はゆっくりと歩み寄った。
「じゃ、なに?」
「その……多希さん、目立ちすぎですから」
「俺?」
言われて多希は周囲を見渡す。確かにそちらこちらから女性達の視線が集まっているようだった。そんな視線を一瞥して、多希はおもしろくなさそうな顔をする。
「……目立つから、何? 自分も一緒に目立っちゃうのがイヤ?」
そう言われて、桃佳はますます俯いてしまった。
その通りで反論のしようもない。
多希と一緒に歩くことで、目立ってしまうのが怖かったのだ。目立ってしまえば、人から攻撃されてしまうかもしれない。そんな思いがどこかあるからこそ、ずっと目立たないように過ごしてきたのだから。
「それとも、俺と一緒なのが気に食わない?」
その言葉にはすぐに首を横に振る。多希が嫌というのではない。桃佳は自分が嫌なのだから。
自分と一緒なのが嫌ではないということが分かり、多希は内心ほっとしながら言葉を続ける。
「どうしてそんなに人の目を気にすんの?」
「……多希さんには分りませんよ。それだけ綺麗なんですから」
視線をつま先あたりで彷徨わせながら、桃佳は消え入りそうな声でそう言う。
「綺麗って、見た目のこと? だったらモモだって可愛いと思うけど?」
「私は……そんなことないです」
やはり小さく答える彼女は、こんなに開放的なところに来ているというのに、すっかり自分の殻に閉じこもってしまったようだ。
「人の目なんてさ」
言いながら桃佳の前で立ち止まった多希は、おもむろに彼女の手を取る。
桃佳は驚いたように目を開いて、柔らな表情をしている多希を見た。
「気にする必要ないって。分かる奴にだけ分かってもらえばいいだろ? 全ての人に受け入れられる人間なんていないんだから」
ぐっと、強く手が握られる。
ひんやりとした感覚が、その存在感をはっきりと桃佳に伝えてくる。
「それに、誰かひとりにでも理解されてれば、俺は他の人間にどう思われようと構わないけど」
にっこりと笑顔を向けて、多希は桃佳の手を引いて歩き始めた。
「で、でも……」
それでもなお何か言おうとする桃佳の言葉を遮るように、多希は口を開く。
「でもじゃない。俺が今こうして一緒に歩きたいのはモモなの。他の誰が何と言おうと、そんなの関係ない。俺がそうしたくて、そうしていることだから。俺がいいって言ってるんだから、それでいいの!」

まっすぐ前を見てそう言う多希の目は、いつになく真剣だ。
その真剣なままの瞳で桃佳を少しだけ振り返り、ふんわりと微笑む。本当に柔らかく。そんな表情を向けられて、桃佳は一瞬心臓が止まったような錯覚を覚える。
眩しい日差しの下で見る不思議な色の瞳は、いつもよりも明るく見えた。

手をつないで歩くふたりのことを、振り返って見ている人がたくさんいた。
目立つのは確かに嬉しくはない。それでも、向けられる視線はさっきよりも気にならない、そんな気がした。

「……ありがとうございます」
やっと小さな笑顔を見せる桃佳に、多希も笑顔を返す。
「そうだよ。人の目ばっかり気にしてるなんてバカらしい」
「……ですね」

桃佳の高校時代のことを楓から聞いていた多希は、自分の言葉だけで桃佳の考えが変わるなどとは少しも思ってはいない。
周りの目を気にする彼女の気持ちは、多希にもよく分かっていたから。

ずっと見た目だけでちやほやされ、誰も自分の中身を見ようとはしてくれなかった。勝手なイメージを抱かれ、素の自分をどんどん出すことが出来なくなっていく。
だからこそ多希は自ら、周囲の希望通りの『柴山多希』を演じ続けてきたのだから。
桃佳も自分が傷つかないように、『おとなしい清水桃佳』でい続けたに違いなかった。
そんなふうに作り上げてしまった自分を壊すことは難しい。
心の奥にある、ケロイドのようにはっきりと残ってしまった心の傷を消すのはもっと難しい。

それでも白いワンピースをひらひらさせながらついてくる彼女を、自分の力で変えてみたいと思うのだ。
駿ではなく、自分の手で桃佳の色を変えられたなら……

「多希さん、まだ先ですか?」

声をかけられ多希はハッとする。桃佳が見上げるようにして彼の顔を見ていた。
「うん。もう少しかな。歩くのもたまにはいいだろ」
「でもまた熱中症にならないで下さいよ」
心配半分、からかい半分の桃佳の言葉に、多希は苦笑いした。
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