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ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


81.ふたりの時間

2010.04.13  *Edit 

「律子さん、どうしたんですか?」
受付の子に声をかけられて、律子は店を出て眩しい日差しの中に消えていく、桃佳と多希の背中を見送った。
「なんでもないわ」そう言って大きく伸びをする。「さあ、仕事仕事!!」
律子は、もう二度と会うことはないだろう、一夜を共にした男とその可愛らしい恋人に、心の中で「さよなら」を告げる。ほんの少しだけ微笑むその顔は、妙に清々しかった。



建物内から外に出ると、もう夕方だというのに眩しい夏の光が照りつけて、多希は少しだけ目を細めた。ちらりと振り返ると、同じように目を細め、それでも多希を見てにっこりと微笑む桃佳がいる。
「どこか行きたい所はある?」
そう問いかけると、桃佳は少しだけ困ったような顔をして眉を寄せた。
困った顔はしているものの、いつもならばすぐに決定権を放棄してしまう桃佳が、そうはせずに悩んでいる。その様子に多希は少しだけ驚き、そして嬉しかった。それに、顎にちょこんと手をやって、斜め上を見ながら思案している桃佳の姿はどことなく可愛らしくて、そんな様子を目を細めて見つめる。
ふと視線を前方に戻すと、多希は通り過ぎていく男たちの視線が、自分の後方に送られていることに気がついた。
それが桃佳に向けられたものだというのは、明白だ。
本人は自覚していないものの、桃佳の容姿はもともと人目を引くのだ。それが綺麗に化粧を施し、更には華奢な肩やショートパンツから伸びるすらりとした足を惜しげもなく晒している今は、尚更だ。
夏の陽を反射させる白い肌を見ていると、多希は自分で選んだにも拘らず「露出が多すぎる」と、ついムッとしてしまう。
「ちっ」
と小さく舌打ちをすると、多希は周囲に鋭い視線を向けた。

「モモ、行こう」
「え? あ、はい」
まだ考え込んでいた桃佳の腕を半ば強引に掴み、多希は駐車場に向かって歩き出した。
初めはいつもと違う桃佳の姿を、他の人に見せつけたいという思いがあった。だから、ふたりで人ごみの中を歩きたいとさえ思っていた。
けれどいざ彼女の肌が人前に晒されると、途端に誰にもその白い肌を見せたくないという、独占欲のような気持ちが湧き上がってきて、どうすることもできなくなってしまったのだ。
ずんずんと大股で歩き、桃佳を車に乗せると、多希はやっとほっとする。
ほっとした途端に、そんな自分の子供じみた考えと行動に愕然とし、思わずハンドルに両腕を乗せて頭を抱えてしまった。
自分のものでもないのに、桃佳の肌を他人に見られるのがどうしても我慢できない。桃佳にこんな服を着させたのは自分だというのに。そして、誰の目にも届かない車内に戻って、この上なくほっとしている自分……
あまりにも自分勝手で、あまりにも矛盾していて、けれどどうしようもなくて、多希は頭を抱えたままで大きなため息をついた。
「……多希さん、もしかして具合、悪いんですか?」
桃佳が助手席から覗き込むようにして多希の様子を窺う。
心の中でもやもやと渦巻いている思いを悟られないように、多希はいつもの笑みを作った。
「ああ、大丈夫だよ」
「そうですか? ……よかった」
「さあ、これからどうしようかな」
多希はそう言ってこれからの計画について考える。まだ夕食の時間には早い。かといって、これといって目的地も思い浮かばない。第一、人の多い所ではさっきのように誰かれ構わず睨みつけてしまわない自信がなかった。
思いを巡らしていると、「あの……」と、桃佳が小さく声を掛けてきた。
「なに?」
「その、さっきのどこか行きたい所はある?って質問はまだ有効ですか?」
「……有効、だけど?」
多希の答えに桃佳はほっとしたような顔をして、それからおずおずと口を開いた。
「もしよかったらなんですけど、ちょっと近くはないんですけれど、ふれあい広場とかって、動物を触らせてくれるところがあるらしいんですよ……」
「うん」
多希は話の先を聞くために相槌を打ったものの、桃佳はそこまで言うとほんの少し赤くなって俯いてしまった。その様子を見て、多希はやっと桃佳の言いたいことが分かる。
「そこ……行ってみようか?」
「……はい!!」
にっこりと、嬉しそうに笑う桃佳を見て、多希もまたふっと笑ってしまう。
「じゃあ、そこに行ってみよう。道案内頼んだよ」
「え? わ、私も行ったことはないんです……」
自信なさげにしゅんとうなだれる桃佳がおかしくて、多希はアクセルを踏みながらぷっと吹き出した。
「それならどっかで地図でも買って探してみよう」
ハンドルを切って道路に出る。目指す場所は正直もう、どこでもよかった。ただ、桃佳が望む場所であるなら、多希はそれがどこであろうと探し出して連れて行きたいと、そう思うだけだった。
彼女が望む場所なら、どこでも……





「多希さん、ほら、可愛いですよ!!」
桃佳はさっきからふわふわのウサギを抱いて、子供のようにはしゃいでいる。
無事に着いた目的地で、着いてすぐに桃佳は放し飼いにされている動物たちを抱き上げては、そのぬくもりを感じていた。多希はそんな彼女の様子を、動物を放し飼いにしている柵の外から目を細めて見ていた。
家族連れが多く、多希の心配していた視線に、桃佳が晒される心配もそれほどしなくてもいい。
「ほら、可愛いですよ。抱っこしてみたらどうですか?」
ずいと目の前に、ウサギのひくひくしている鼻先が突き出され、思わず多希は数歩後ずさった。
「……いや、俺はいいよ」
「多希さん……もしかして、動物だめですか? あれ、でも昔犬を飼ってたって言ってませんでしたっけ?」
桃佳は多希の目の前に差し出していたウサギを抱きなおし、そっと背中をなでながら尋ねる。
「動物は……犬限定だ。あと抱っこするなら……モモだけでいいや」
「!! バ、バカじゃないですか!?」
にやりと笑いながらも真剣な目に、桃佳はかあぁっと頬を赤らめてくるりと踵を返す。からかわれていると思っても、そんなことを言われたら火照る顔をどうにもできない。

自分から少し離れたところで、今度は羊に餌をやっている桃佳を、多希は柵にもたれかかって眺めていた。
傾き始めた日差しの中、妙に穏やかな気持ちで多希は彼女のことを見ていた。あまりにも穏やかで、この時間が永遠に続くのではないかと錯覚してしまうほど。
けれど、永遠などないことはよく知っている。
羊に餌をやり終わって戻ってきた桃佳に、多希はにこりと微笑みかけた。
「そろそろ、行こうか」
「そうですね」
こうして思ったよりもすんなりと、『永遠を感じた時間』なんてものは終わるんだ。
心の中で呟いて、多希は小さく苦笑いをした。





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