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ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


9.昼休みのふたり

2010.03.23  *Edit 

昼時で混んでいる職員食堂で、小嶋拓巳(こじまたくみ)は難なく目当ての人物を見つけることができた。
トレイの上のAランチと水がこぼれないように、慎重にテーブルの上に置くと、目当ての人物の前に座る。

「よ。多希。前、いいかな?」

多希は眼鏡越しに目を上げて微笑む。
「って、もう座ってんじゃん」
拓巳は椅子を引き寄せながら、ちょっと小声で多希に話しかける。
「いや〜、昼に会えてよかったよ。じゃなかったら、今夜にでも電話しようと思ってたんだ」
本日のAランチ、チキンカツ定食を口に運びながら拓巳が言う。
「何?何かあった?」
一方の多希はカレーライスを食べている。
「カレーっていう手もあったなあ・・・」なんて言いながら、拓巳は多希のカレーをまじまじと見つめた。
「何言ってんだか」多希は何の警戒心もない顔で笑う。「で?何か話があるんでしょ?」
「そうそう、そうなんだ」
忙しそうにチキンカツを口に運びながら、多希の方に身を乗り出して、拓巳は小声で言う。「多希、今週末って何か予定ある?」
「今週末?」
「そう、今週末。外科病棟の看護師さんたちと飲み会。どう?」
「あ、今週末、無理。俺、予定あるから。それに・・・」
そこまで言うと、多希も声のトーンを落とす。
「・・・職場の女は喰わないって決めてるし。拓巳だって知ってるだろ?」
にやりと笑う。
拓巳は「まあね」と苦笑した。


拓巳と多希とは小学校からの付き合いだ。
現在はこの緑野総合病院で、多希はレントゲン技師、拓巳は事務として働いている。
付き合いは、もうかなりの年数になる。
友達という表現よりも、『悪友』だとか『腐れ縁』という言葉の方がしっくりくるかもしれない。
だから、「職場の女は喰わない」と言った、多希の言葉の意味だってよく分かっていた。
その言葉の通り、多希は絶対に職場の女には手を出さない。
彼は職場では、どちらかと言うとおとなしい、穏やかなタイプで通している。
多希にあこがれる子もかなりいるようだけれど、いつだって多希はその穏やかな仮面で、上手にやんわりとはぐらかしてしまうのだった。
そのくせ、仕事から離れてしまうと、女癖は相当悪い。
特定の彼女は作らない代わりに、「ちょっと女とやりたくなった」と言っては、適当に女を見つけてきてはヤリ捨てるのだった。女の方が本気になってしまっても、多希は一度だって本気になったことなどない。
一度、拓巳が多希の部屋にいるときに女が押し掛けてきたことがあったが、多希は冷たい表情で「ヤるだけのつもりだったから。それ以上なんてありえない」と言い放っていた。
こいつはいつか本当に女に刺されるかも・・・と拓巳は思ったが、彼としてもそんな多希に強くは言えなかった。
そんなめちゃくちゃな多希を見るたびに、『あの事』を思い出してしまうから、仕方ないとさえ思えてくるのだった。
『あの事』
・・・ちょうど、その頃からだったかもしれない。多希とつるむようになったのは。


「それに」
多希の声に、拓巳ははっとした。
つい、『あの事』のことを思い出していた。
「うん」あわてて返事をする。あの時のことは、多希だって思い出したいはずがない。
「俺、しばらくそういうの、誘ってもらっても行くつもりないから」
「何で?」
多希が、もの凄く悪い顔でにやりと笑う。
「・・・実は、面白いおもちゃを手に入れたんだ。だから、しばらくはそれで遊ぶから」
多希の脳裏に桃佳の怯えた表情が浮かぶ。
どうしていいのか分からずに、パニックに陥った顔。
写真を撮られていたことが分かって、怒った顔。
それから、あの夜の出来事も多希が仕組んだことだと告げた時の、呆然とした顔。
思い出すだけで面白くなってくる。
「・・・多希、お前、すっごい悪党な顔してる・・・」
多希が何を考えているのか、面白いおもちゃとは何なのかは分からなくても、またどうしようもないことを考えていそうだということだけは拓巳にもわかった。
「そう?」
にっこりと笑う多希は、はたから見ればこの上なく爽やかだ。
事実、この職員食堂でも、多希を見ている女の子のなんと多いことか。
「ホント、二重人格だよなあ」
「うまく生きていくためには、TPOで人格くらい使い分けないとね」
多希がさらりと言ってのける。

そう、自分の居場所を確保するためには、頭を使わないといけない。
そうしないと生きていけない。

多希の心にそんな思いがふっと浮かんで消えた。
けれどその思いは、小さなころから自分に言い聞かせてきたもので、その思いが浮かんだことさえ、多希は気がつかなかった。
それほどまでに、彼にとっては軸となる考えなのかもしれない。

「・・・それにしてもさ」拓巳が言う。「いいの?渡辺美緒(わたなべみお)ちゃんも来るよ」
聞きなれない名前に、多希は眉をひそめる。
「あ?誰だよその・・・えっと、なんとかなんとかちゃんって子は」
「なんとかって・・・渡辺美緒。知らない?」
「知らない」
「・・・お前って、ホントに職場の女には興味ないんだな。美緒ちゃんと言えば、うちの看護師の中でも指折りの美人。その美人さんのご指名なんだよね」
拓巳がため息交じりに言う。
渡辺美緒。
外科の看護師で、今回の飲み会の幹事でもある。
「絶対に柴山さんを誘ってくださいね!!」
多希と仲のいい拓巳に、美緒はそう迫ったのだった。
「そうなんだ。でも本当に興味ないし」
多希は白けたような顔で水を飲む。
「ご指名なんだけどね」
返ってくる答えは分かり切っていたけれど、それでも拓巳は食い下がる。
「関係なし」
「・・・やっぱりね」
桃佳とのこれからのことを考えると、たとえどんな美人に言い寄られようとも、そんなこと色あせてしまう。
美人のご指名も、今の多希には全く意味がない。
「多希さ、まじめに女の子と付き合おうとか考えないわけ?」
「考えると思う?」
逆に聞かれて、拓巳は狼狽する。
考えるかどうか、そう聞かれれば、きっと答えは・・・。
黙りこくってしまった拓巳に、多希は微笑みかけた。どことなく冷めた瞳で。
「女なんてさ、信用するもんじゃないって。俺、女に人生狂わされるのは嫌だから」
やっぱり、と拓巳は思う。
あんなことがあったんだから、女を信用できなくなっても仕方ないだろう。
女だけじゃない。
もしかしたら多希は、信じること自体を「馬鹿らしいこと」と思っているのかもしれない。
そう思うと、白衣をびしっと着こなし、女性職員から羨望の眼差しで見つめられている、他人から見れば羨ましい限りの多希を、拓巳は多少なりとも気の毒に思うのだった。

「そっか・・・」拓巳はため息交じりに、残りのチキンカツを口に運ぶ。「じゃあ仕方ない」
「お前の顔つぶして悪いな」
多希は食後の一服の煙草に火をつけ、すまなそうに笑う。
多希にとって拓巳は、信用できる数少ない友人だ。
どんな形であれ、拓巳の顔をつぶしてしまうことは、心底申し訳ないと思っていた。
「構わないよ。まあ、お前が職場の女には手を出さないことは知ってるし」
拓巳も煙草に火をつけ、仕方ないといった風に苦笑する。
「ところでさ、週末に予定が入ってるなんて珍しいよな」
拓巳の問いかけに、多希は心底楽しそうな笑顔を見せた。
「ああ。引っ越しなんだ」
「引っ越し?」
「引っ越しだよ」
多希は火をつけたばかりの煙草を灰皿でもみ消した。
「これから楽しくなるんだ」


桃佳の顔がまた脳裏に浮かぶ。
駿の大事な桃佳。



「これからが本番なんだ」


多希はどこかを見つめて、にやりと笑った。




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