りんどう庵

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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


87.あの日から……

2010.05.01  *Edit 

もう明かりの灯っていない部屋の窓を見上げ、多希は小さく息をついた。
アルコールの混じった息はどこか熱い。あれから拓巳とふたりでかなりの量のビールを明けた。拓巳はもう桃佳とのことには触れず、ただ他愛もない会話をずっとしていたのだった。
時刻はもう23時を過ぎている。部屋の明かりが消えていることからも、きっと桃佳はもう眠っているのだろう。本当は今すぐにでも彼女の部屋に行って、その柔らかな髪に触れたいところだった。でも帰り際に、「多希、いいか。今日はおとなしく自分の部屋に帰るんだぞ」と釘を刺されてしまったのだ。自分の気持ちを見守ると言ってくれた拓巳にそう言われては、さすがの多希もおとなしく自分の部屋に帰るしかない。

暗い部屋に入って、明かりもつけずにベットに転がる。両手を頭の後ろで組んで、天井を眺めた。
かなりの量を飲んだにもかかわらず、頭は変にすっきりして眠気も襲ってきそうにない。それでも拓巳に自分の全てを打ち明けたことで、どこか気持ちが軽くなっていた。

『桃佳のそばにいたい』

そうはっきりと口にしたことで、自分の中でしっかりとした何かが芽生えるような感覚。
そんな感覚を覚えながら、多希はそのきっかけとなった日のことを思い出していた。


あれは……そう、まだ雪も残る3月の終わりのこと。



それはよく晴れた土曜日の午後だった。
最近雪の日が続いていたが、その日は久しぶりにすっきりと晴れあがっていた。日差しにも幾分春の気配が感じられ始めた、あたたかな午後。
その日もっと職場に近い場所に引っ越しを考えていた多希は、物件を探しに行くついでに、最近できたという大型の書店に立ち寄っていた。
専門書も数多く取り扱っているというので立ち寄ってみたものの、それほど興味を惹かれるものはなく、ぶらぶらと書店の中を見て回る。暖房のきいた店内は暑い。あたたかといっても外はまだ冬の寒さを残している。多希は緩めていたマフラーを巻きなおして出口に向かった。そしてその時、見たのだ。
彼らを。
自分に背を向けるようにして横断歩道を渡っていく弟の駿と、彼としっかりと手を繋いで歩いていく桃佳。
それが初めて多希が桃佳を見た日だった。

弟の駿に彼女ができたことは知っていた。時々多希のひとり暮らしのアパートに遊びに来る駿は、最近できたという彼女の話をよくしていたから。
嬉しそうに彼女の話をする駿に、本当のところ多希はいつも苛立ちを覚えていたのだ。いつでも愛情に包まれて育ってきた駿。嬉しそうに大事な人の話をする彼の顔は、まるで自分の方が優れていると言っているようで、時々我慢ならないことさえあった。
そして、そんな感情とともに、強く興味もそそられた。
駿が大事にしている存在とは、どんなものなのだろう……と。


俺は何をしているんだ?
そう思いながらも、多希はふたりのことを観察するようにその後を追っていた。しっかりとマフラーで顔を隠し、見つからないように。
ふたりは他の存在など興味がないかのように、多希の存在には気がつかない。ずっとしっかりと手を繋いで歩いている。
背の小さな彼女を気遣うようにゆっくり歩き、時々優しく微笑んで振り返る駿。そして、その優しい笑顔に答えるように、にっこりと微笑みを返す桃佳の横顔。
そんな駿の顔は、多希の知らない顔だった。もともと駿は優しく穏やかな性格だったけれど、そんな普段の駿とはまた別の顔。そこには言葉には表せない「何か」が確かにあるように多希は感じる。多希には分からない何かが。

ふたりの後姿を追いながら、多希の中でずっと抑え込んできた醜い感情が目を覚まし始める。
小さなころから愛されて育った駿。それとは正反対に、ずっと疎まれ続けた自分。それは決して駿のせいではないことくらいは多希にも分かっていた。時々どうしようもなく駿を憎いと思ってしまう瞬間があっても、それでも今まで兄弟としてうまくやってきたのだ。駿に非はないのだから。
駿が自分のことを信頼しているのは知っていたし、信頼される優しい兄でい続けるのもそれほど嫌ではなかった。そうすることで、多希は辛うじて柴山の家と繋がることができていたのだから。
けれど、醜い感情が溢れだすのを止められない。
駿の優しい笑顔以上に、隣で穏やかに微笑んでいる桃佳の顔を見ていると、その感情は強さを増した。
駿の思いに包まれ、そして駿の思いを包み込むような柔らかく、あたたかな桃佳の笑顔に。
そこには自分が得られなかった全てがあるような気がした。
一番欲しかった何かが。
それを手に入れている駿が、酷く憎らしかった。そう思う自分を止めることができなくなってしまった。

奪ってやりたい……
壊してやりたい……

そんな思いが確かに多希の中に芽生えた瞬間だった。



それから多希は時々自分から駿を部屋に呼び、彼の話を注意深く聞くようになった。
もちろん桃佳の情報を聞き出そうと思ってのことだったが、多希が何か聞くよりも駿の方が色々と話をしてくれたのだった。住んでいる場所、通っている学校……多希は注意深くその情報を刻みこんでいく。
何度か桃佳のことを遠くから見ていたこともあった。
確かに可愛らしい顔をしているものの、特別とは言えない。多希にはどうして駿が彼女のことを大事に思っているのかが分からなかった。それに妙におどおどしているし、その上、どこか危なっかしい。
……守ってやりたいとか、そういうものか?
いつしか桃佳自身にも興味を抱くようになっていた。

そして偶然にも桃佳の隣の部屋が空室だと知った時、多希は迷うことなく契約をした。
まずは近ずこう……そう考えて。
けれど、桃佳の部屋には当然駿もやってくる。簡単に手出しをすることはできないことに気がついたのは、契約後のこと。あまりにも自分の愚かさに、多希は苦笑いを漏らしたほどだった。
結局、奪ってやりたい、壊してやりたいと思いつつも、身動きの取れない自分。多希はいらだつ気持ちを抱えながらも、どうする事も出来ずに日々だけが過ぎていった。……あの日まで。


その夜、多希はたまにふらりと立ち寄るバーでひとりビールを飲んでいた。
騒がしくないその空間が気に入っていたというのに、その日に限って何やら酷く騒がしい。「かんぱーい!!」そんな酔いのまわったような妙に明るい声が聞こえる。すぐに学生の飲み会だということが分かった。
せっかく静かに飲みたかったというのに……多希は眉をひそめてグラスに口をつける。この一杯で最後にするつもりだった。こうも騒がしい空間では、落ち着いて飲むこともできない、と。
グラスの中のビールもあと数口になった時、ふんわりとした髪の毛が視界の端を横切った。
「すいません、ウーロン茶ください」
その横顔に多希は目を見張った。
頬杖をつき、ほうと熱い息を吐いているのは、間違いなく駿の彼女である桃佳だったのだから。
その計画は一瞬のうちに多希の頭の中で完成した。彼は浮かんでくる冷たい笑顔を隠し、優しげなそれにすり替える。
「みんなのところ、戻らなくていいの?」
突然に声を掛けられて、驚いたように桃佳が多希を見つめる。初めてふたりの視線が交わる。
「一緒に飲まない? ひとりで退屈してたんだ」
強引に桃佳の分のカクテルを頼み、逃げられないようにした。
ゲームを始めよう……
そう心の中で呟きながら、ただ駿の彼女と言うだけで被害者になってしまう桃佳に優しく優しく微笑む。大事なゲームの駒を、失ってしまわないように。

それからはもう簡単だった。甘いカクテルはすぐに桃佳を判断能力が鈍るほど酔わせ、あとはホテルに連れ込むだけでよかった。
そして服を脱がせて、逃げられなくするために必要な写真を携帯で写すだけでも、本当はよかったのだ。
目の前にはすっかり酔い潰れ、何も身に着けていない白い素肌を晒す桃佳。
最初はただ桃佳が逃げられないように写真を撮るだけのつもりだった。けれど、その白い素肌に、奪ってやりたいという欲望が急速に膨らんでいく。多希は華奢な桃佳の素肌を指でなぞると、そっと首筋に唇を這わせていった。



まるで本当に桃佳がそばにいるような、彼女の甘い香りを感じて多希は闇の中で目を開ける。もちろんこの部屋には多希ひとりだけ。
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
さっき感じた甘い香りに、焦がれるような思いは急速に熱をはらみ始める。
初めて桃佳を見たあの日から、こんなことになろうとは思いもしなかった。
ただ駿から大事なものを奪ってしまえればそれでよかったはずなのに、そしてうまく桃佳を手に入れられたのなら、あっさりと捨ててやろうと思っていたのに。
誰かを好きだと思っている自分を演じて、楽しんでみるのもいいと思っていた。誰かを必要だとか大切だとか思うことは、自分には無縁なことだと思っていたから。
それがいつの間にか桃佳は感じたこともないくらいに大事な存在となり、駿から奪うという目的はどうでもいいものになり下がってしまった。……いや、桃佳のことが欲しいということは、駿から奪うことと同じ意味。それでも、多希にとってはもう駿のことなどどうでもいい。
ただ、他の何も関係なく、自分という檻の中に桃佳を閉じ込めてしまいたい。

ふと別れ際に拓巳が真剣に言った言葉が耳の奥で蘇る。

「多希、俺は見届けると言ったけど、お前のことを応援したりは絶対にしないからな。お前のしていることは間違っている。モモちゃんに対する気持ちまで間違っているとは言わないけれど、それでも絶対に間違ってる。……俺には認められないよ」

その言葉は多希にも分かっていること。
それでももう、多希には自分の気持ちを止める術はない。

「……分かってるよ、拓巳。分かってる。……でも、今だけはそばにいたいんだ。今だけ……」

小さく呟いた声は、多希自身に向けられた言葉だったのかもしれない。




* * * * *
こんにちは!! 沢上です。
すっかり更新が遅れてしまって申し訳ありませんでした。
実は体調を崩してしまって、寝込んでいたり……(汗)
体調はもうすっかりいいのですが、世間はゴールデンウィーク。
我が家のチビさんたちも、保育所お休みです。
と、いうことで更新作業がなかなかできない可能性が濃厚です^^;

のんびりと待っていていただけるとありがたいです♪
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~ Comment ~

はじめましてっ∩ω∩ 

こんにちゎ(^ω^)
昨日見つけて
読ませてもらっていますっ!!!
すごくいいですねっ(∀)
物語の中に入っていくみたぃな
感じがします(´д`*)

更新、頑張ってくださぃね(^∀^)√
  • #5 苺 
  • URL 
  • 2010.05/04 11:18分 
  • [Edit]

Re: はじめましてっ∩ω∩ 

苺さん、はじめまして!!

読んでくださって本当にありがとうございますv-238
新しく読んでくださる方がいると、本当に嬉しくなってしまいますね。
入り込んでもらえたようでよかったです。
これからも「いい」って言っていただけるように、精進します♪

更新はどうにも不定期なのですが、お暇なときにでも覗きに来てくださいね!!
また感想等、聞かせていただけると励みになりますので、どうぞよろしくです^^

ありがとうございました!!
  • #6 沢上澪羽 
  • URL 
  • 2010.05/08 21:32分 
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